Verre-3 王女様のおもてなし

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 ビスキュイが周囲を取り囲み、ババロアの上にクリームとフルーツがたっぷり飾られているケーキ。名を果物のシャルロット(シャルロット・オ・フリュイ)と言う。シャルロットという名前は海の向こうの某国で女王もしくは王妃だった人物の名前から取られたとも、古い言葉でお菓子やケーキを意味する単語から変化したものとも言われている。  共に作るにあたって、リオンはいくつかのお菓子をシャルロットに提案した。初心者でも簡単に作れそうな物から、ほとんどリオンが手を貸してやらなければ作れなさそうな物まで。その中からシャルロットが選んだのが、シャルロットだった。王女主催のお茶会で王女と同じ名前のケーキを王女が作って出せば話題性は抜群である。  もちろん、シャルロットがシャルロットを選んだ理由は話題性だけではない。リオンが「シャルロットが云々」と説明をしてくれた時、シャルロットはなんだかむず痒くなってしまって「ね、それにしましょ」と話を切り上げさせた。リオンにも理由は話題になるからだと言ってあるが、実際は自分と同じ名前のケーキが存在しているならばそれをリオンと共に作る初めてのお菓子にしない理由などないと思ったからである。恥ずかしくて、嬉しくて、どきどきして、わくわくした。  客人達は王女が手ずから作ったというケーキに歓声を上げた。拍手をする者もいる。本心で喜んでいる者もいれば、喜ぶべき状況だからと喜んでいるように見せている者もいる。  お茶を飲み、お菓子を食べ、談笑を楽しみながら時間は過ぎて行く。  中庭の隅の方のテーブルでババロアを突いていたリオンの元に、話に花を咲かせるという名前の情報収集を終えたシャルロットが寄って来た。 「『これだ!』というお話は特になかったわ」 「そうですか」 「まだ少し時間はあるし、もうちょっと皆様とお話して来るわね」  この場におけるリオンの立ち位置は準備を手伝っただけの客人に過ぎない。皆に紛れてお茶を飲み、シャルロットの報告を待つことしかできない。リオンから誰かに話を訊いてみてもいいのだが、シャルロットと同じような質問をして不審に思われても困るのだ。  賑やかなテーブルに戻って行くシャルロットと入れ替わるようにして、中庭に入って来たアンブロワーズがリオンの元へ駆け寄って来た。風を孕んでローブが広がり、迫って来る姿が妙に大きく見えた。  リオンはティーカップをソーサーに置く。 「何か分かった?」  アンブロワーズは笑顔を浮かべているが、この魔法使いは灰かぶりと接する際には基本的に笑っているため表情は話す内容のあてにならない。  適当なマカロンを摘まんでから、リオンのすぐ傍に寄る。周囲に漏れ聞こえることがないように顔を近付けて耳元に口を寄せ、誰かに口の動きを読まれないように手で口元を隠す。 「匿名の情報なんですが」
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