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Verre-4 ガラスの靴は誰のもの?
六月四日。王女主催のお茶会、二日目。
客人達に挨拶をするシャルロットの声を聞きつつ、リオンは中庭の様子を見回していた。招かれた貴族やその使用人達が集まっている。しかし、リオンの探している人物の姿はない。ずっとへばりつかれていても困るが、いなくなられても困るのだ。
昨日のお茶会の後、リオンはシャルロットが眠ってしまったことを使用人に伝えてから中庭を退出した。
シトルイユを預けている馬係の元へ向かう途中、真っ白な姿を探しながら歩いたがアンブロワーズは見当たらなかった。情報収集を終えてそのまま帰ってしまったのだろうか。自分に何も言わずにいなくなるとは思えず、リオンはすれ違った使用人達に訊いてみたが手がかりは得られなかった。そのため、もしも姿を現したら自分は先に帰ったと伝えるよう使用人に言って、シトルイユと共に帰路に着いたのだった。
そして今朝、リオンはレヴェイユを発つ前に時計屋へ立ち寄った。おかみさんにアンブロワーズのことを訊ねると、昨夜は帰ってきていないとのこと。ご主人もおかみさんも、てっきりリオンの元にいるのだとばかり思っていたと言う。シトルイユと顔を見合わせ首を傾げてから、リオンは王宮へ向かった。
「リオン」
皆に挨拶を終えたシャルロットがてくてくとやって来た。青いドレスを飾る水色のフリルと、帽子に付いた羽根飾りが揺れる。
「魔法使いさんは見当たらないの?」
「はい。何もなければいいんですが……」
シャルロットは客人達の中で笑っているオール侯爵をちらりと見てから、リオンの方を向く。
「もしかしたら、貴方のために何か作戦を立てているのかも」
「そうだとしても何も言わずにいなくなられると困ります。それも、王宮で」
この二日間、王宮の中庭には数多の人々が出入りしている。アンブロワーズのことを不審げに見ている者も少なからずいた。
もしも、アンブロワーズの身に何かあったら。また誰かに乱暴されていたら。それに加えて、リオンのことも含めて何か言われていた場合に相手に手を上げていたらどうしよう。
悪いことばかりが頭に浮かんできて、リオンは頭を抱えた。あの魔法使いはリオンに随分と良くしてくれる一方で、リオン以外にはほとんど関心がなく容赦もない。昨日は近くにいたので止めることができたが、リオンのいない場所でアンブロワーズの逆鱗に触れるようなことが起こったらそのまま全て破壊するかもしれない。
今にも真っ青になってしまいそうなリオンに、シャルロットは優しく声をかける。
「きっと大丈夫よ」
「そうだといいんですが」
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