Verre-1 灰かぶりと魔法使い

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「村の娘達から茶会に誘われているのだ。丁寧に仕上げてくれよ、灰かぶり」 「迅速かつ丁寧に縫っておきます」 「ではよろしく頼む」  これも、と普段着のスカートをドレスの上に追加してからクロエはリビングを出て行った。スカートはどうやら裾がほつれているらしい。 「俺も持ちますよ。それじゃ前が見えないでしょう」 「ありがとう」  廊下を進みながらドレスを持ち直していると、二人の前に継母が現れた。ヴェルレーヌ家を乗っ取り、いつでも偉そうにふんぞり返っている意地悪な継母だが、リオンをいじめ始めた頃よりはほんの僅かながら穏やかになっている。しかしその変化は義姉達と比較すると微々たるものだ。  継母の登場にアンブロワーズがあからさまに嫌そうな顔になる。 「あら、灰かぶり。庭園で無機物と戯れているのかと思ったら戻って来ていたのね」 「クロエ義姉様に頼まれていたことがあったので」  継母はリオンとアンブロワーズが抱えているドレスを一瞥する。 「そ。探す手間が省けてよかったわ。おまえを探すなんてことのために無駄に体力使いたくないものね」 「お義母様も私に何か御用ですか」 「私ではなくて旦那様。おまえに話があるそうだよ」 「父上が? 仕事のことかな……。分かりました、教えてくださりありがとうございます」  継母に一礼して、リオンは子爵の部屋がある二階へ向かおうとした。もちろん一緒にドレスを抱えているアンブロワーズも体をそちらへ向ける。 「お待ち。鳩は呼ばれていないよ。灰かぶり一人でお行き」 「それでは俺はこのドレスを部屋まで運んでおきますね。行ってらっしゃい、リオン」  リオンはドレスとスカートをアンブロワーズに託し、改めて継母に一礼してから階段を昇った。子爵の部屋に辿り着き、ドアをノックすると中から小さな返事が聞こえた。  子爵は部屋に入って来たリオンを笑顔で出迎える。少し調子がいいのか、ベッドの上で体を起こしている。 「父上、起きていて大丈夫ですか」 「あぁ、今日はちょっとだけ元気だ。寝てばかりいてもよくないからな」  ベッドの脇に置かれた椅子にリオンは腰を下ろす。 「先日の議会の資料、目を通したよ」 「では次回、父上の意見を皆様に伝えておきますね」 「……リオン」 「はい」 「エルヴィールからは何も聞いていない? アイツは何も言っていなかったか」 「お義母様? 父上が呼んでいるとだけ」 「そうか……」  子爵は少し躊躇ってから、手にしていた紙をリオンに差し出した。 「なんです?」 「……目で見ただけでは読み間違えるかもしれない。ちゃんと音読して中身を理解してほしい」  真剣な顔で言う子爵を見て、リオンの表情も険しくなる。無意識に震える手で掴んだ紙に、ゆっくりと目を落とす。
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