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シャルロットは近くにあったクッキーを手に取り、不安げなリオンの口に強引に押し込む。
「んんっ」
「お菓子でも食べて元気出して。今ここに魔法使いさんが戻ってきたら、わたくしが貴方をしょんぼりさせたんだと勘違いされてしまうわ」
「ん……」
「今日のお客様達にも珍しい靴について訊いてみたけれど、それらしいお話は聞けなかったわ。……残りは、オール侯爵」
咀嚼したクッキーを飲み込み、リオンはシャルロットの指し示す方を見た。談笑する貴族達の中に侯爵の姿がある。
おじさん達の輪の中から少年が一人ぽんと飛び出すように抜け出て来た。客人の間を縫うようにしてリオン達に近付いて来るのはドミニクである。
「シャルロット様、本日はお招きいただきありがとうございます」
「ドミニク様、ごきげんよう」
「リオン様、顔色があまりよくないようですが……」
「えっ。そうですか? ご、ご心配なく」
「ねえドミニク様、オール侯爵とお話することはできるかしら。挨拶はしたんだけれど、後はもう皆様に囲まれているから」
「呼んで来ましょうか」
「お願いするわ」
ドミニクが小走りに戻って行く。ほどなくして、オール侯爵が渋々といった様子でリオン達の元へやって来た。
シャルロットは侯爵のことを力強い視線で見上げる。対して、リオンは緊張した面持ちでシャルロットの半歩後ろから侯爵の様子を窺う。
「何か御用ですかな」
「お話があります、オール侯爵」
一呼吸置いてから、シャルロットは一歩踏み出した。
「侯爵が珍しい靴を持っているという噂を耳にしたんです。わたくしにも見せてくださらないかしら」
好奇心旺盛な少女が純粋な気持ちでお願いをしている。言葉だけ聞けばそう感じてしまいそうだが、王女然としたシャルロットの様子と共にいるリオンの存在がかわいらしいお願いを威圧的な命令に変える。
侯爵はリオンのことを一瞥する。
「どこでそんな噂を聞いたのですかな、王女様は」
「昨日今日と皆様とお話をしている中で耳にしたんです。侯爵がどんな珍しい靴を持っているのか気になって。それは……。それは、ガラスの靴よりも面白いものなのかしら?」
「ふむ……。そんなものがあるのなら私も見てみたいですな。生憎心当たりがありませんね」
「あら、それじゃあただの噂だったのかしら」
残念そうに見せるシャルロットと、余裕そうに笑う侯爵。侯爵に本当に心当たりがないのか、実は知っているからこそ知らないふりをしているのか、今の状態でははっきりしない。リオンは二人のことを交互に見た。少し離れて三人を見ているドミニクは居心地が悪そうである。
侯爵の視線がシャルロットを飛び越してリオンへ向けられた。ばっちりと目が合い、リオンは思わず体を強張らせる。
「リオン殿、こんなところでのんびりお茶を飲んでいていいのかね。ガラスの靴は見付かったのかな?」
「い、いえ……まだ、です……」
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