Verre-4 ガラスの靴は誰のもの?

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「アンブロワーズ、それは左足だね」  リオンの言葉にアンブロワーズはにこりと微笑んで頷いた。侯爵はハッとして、目の前できらきらしている靴をよく見て確認する。  リオンが言う通り、アンブロワーズが手にしているのはシャルロットの持っているガラスの靴の左側である。シャルロットが保管している左足の靴がジャンドロン邸から出てくるわけがない。 「侯爵、すみません私の従者がおかしなことをして。従者ではないんですが。……ですが、侯爵。先程『ガラスの靴がジャンドロン邸に置いてある』かのような発言をされたのはどうしてですか?」 「む。気のせいではないかな」 「わたくしはっきり聞いたわよ。オール侯爵、どういうことなのか教えてくれるかしら」 「ふん、知らんな。興を削がれた。今日はもう帰らせてもらうぞ」  侯爵は困惑した様子のドミニクとクロードのことを半ば強引に引き連れて、中庭から出て行ってしまった。侯爵の退場に気が付いた貴族達がどよめく。  リオンがガラスの君であることも、ガラスの靴のもう片方を探していることも、ほとんどの者は知らない。彼らが知っているのは、ドミニクが婚約破棄されたこと。シャルロットがオール侯爵とドミニクをお茶会に招いたのは関係悪化を防ぐためではないかと考察する者もいた。  婚約破棄はやはり両者に溝を作ってしまったのでは、と誰かが言った。侯爵の去って行った方を見て、貴族達がざわめく。 「ねえ、どこへ行っていたの」 「あぁ、俺のことを心配してくれていたんですね。ありがとうございます」 「ご主人とおかみさんは私のところにいると思っているみたいだったから、そういうことにしておいたけれど」 「昨日、可能な限り大量の情報を集めた結果やっぱりオール侯爵が怪しいという結論に至ったんです。それで、どうにかしてジャンドロン邸へ侵入して靴の真偽を確かめ、あわよくば持って来てしまおうと思ったんですよ。それが一番手っ取り早いですからね。でもさすがに無理だったんで、はったりをかますことにしました。侯爵、驚いていたでしょう? やっぱりあのジジイが持っているんですよ、右足」  リオンに説明をしながら、アンブロワーズはガラスの靴を丁寧に箱にしまってシャルロットに手渡す。 「魔法使いさん、侯爵帰ってしまったけれど」 「あのジジイ、たぶん今から急いで帰って靴を隠すか壊すかするつもりだと思いますよ」 「壊されたら困る! 追い駆けなきゃ」 「それを見越してシトルイユを外に待たせています」 「ありがとう、いつも」 「リオン、わたくしも行くわ」  ガラスの靴の入った箱を抱えたシャルロットがリオンに近付いた。駆け出そうとしていたリオンは踏み止まる。  靴を探すと最初に言ったのはシャルロットだ。もう片方がそこにあるという可能性が僅かでもあるのなら、自分もそこに行くべきだ。訴える彼女のことを、リオンはやんわりと退ける。
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