Verre-4 ガラスの靴は誰のもの?

5/12
前へ
/140ページ
次へ
「貴女はここに残ってください。貴女がいなくなれば客人達が困ります」 「そ、そうよね……。リオン、気を付けて行って来てね」 「はい」  リオンは箱を持つシャルロットの手に自分の手をそっと重ねる。それから小さく頷き、踵を返して中庭を後にした。 「魔法使いさん、リオンをお願い」 「お任せください、王女様」  身振り手振りもわざとらしく大げさに頷いて、アンブロワーズはローブを翻してリオンの後を追った。  オール侯爵に続いてサンドール子爵代理まで会場からいなくなってしまった。事情を知らない残された貴族達は困惑した様子である。  シャルロットはガラスの靴の入った箱を侍女に渡し、配膳係の使用人に声をかけた。そして、目立つ場所へ移動する。 「皆様! 本日はわたくしから皆様に贈り物があるのよ!」  シャルロットの声に、一同がそちらを向く。 「昨日は大好評だったんだから! さあ、わたくしが作った果物のシャルロットを召し上がれ!」  漆黒の馬体が駆けて行く。足元の道路が舗装されていようといまいとシトルイユには関係ない。王宮から飛び出したスピードそのままに、侯爵の馬車を追い駆ける。  リオンはぎゅっと手綱を握った。しっかり掴んでいなければ指示を出すどころか乗っていることすら難しい。あまりにも速すぎるこの馬を乗りこなせる者は限られている。信頼しているからこそ、シトルイユは本気の速さを出せた。  あの日、ガラスの靴を履いてシトルイユを走らせた。今日はガラスの靴を求めて走っている。  しばらく駆けて行くと、豪奢な馬車が見えて来た。 「見付けた」  少しスピードを緩めて、見失わない距離感を保ちつつ追う。 「追い付かなくていいのかって? 追い抜くくらいの勢いで行ったら君が疲れてしまうだろう」  まだ行けると言うように訴えるシトルイユを宥めて、リオンは馬車に目を向けた。  ジャンドロン邸までたどり着いたら、どうやって靴を見せてもらおう。そもそも侯爵は靴を持っているのか。咄嗟に駆け出して追い駆けて来たが、その後のことを考えていなかった。リオンの顔に不安の色が浮かぶ。 「な、なんとかなる……! たぶん……!」  シトルイユはリオンに耳を向けているが特に何も答えない。  やがて、馬車が大きな門を抜けた。奥に屋敷が見える。ジャンドロン邸である。近付いて来る人馬に気が付いた門前の使用人がリオンのことを止める。 「私はリオン・ヴェルレーヌ。サンドール子爵家の者です。王宮で開かれているお茶会にて、オール侯爵が忘れ物をしていらっしゃったので追い駆けて来ました」 「忘れ物……? 旦那様が?」 「はい。もう、すぐに追い駆けて届けて差し上げねばならないと思いまして。侯爵に直接お渡ししたいのですが」  使用人は訝し気に馬上のリオンを見上げている。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加