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ドミニクは少し迷ってから、窓を大きく開けた。リオンに手を差し伸べる。
「私が勝手に入ったことにしてもいいのに、私が手を取れば貴方も共犯者ですよ」
「窓枠なんて一人じゃ越えられませんから。クロードと一緒に引き上げるので掴まってください」
リオンは窓枠に両手をかけて体をある程度持ち上げてから、右手を離してドミニクの手を取る。そしてドミニクとクロードに引っ張り上げられ、廊下に着地した。
侵入者がいることを知らせる使用人の声が廊下の向こうから聞こえて来た。ドミニクは一瞬険しい顔になると、廊下のあちらとこちらを確認する。深刻そうな表情になると侯爵によく似ていたが、わざわざ指摘する暇などないのでリオンは黙っている。
小さく「よし」と呟いて、ドミニクはリオンに手招きした。
「クロード、適当に誤魔化しておいて。リオン様、父はおそらくこちらです」
ドミニクに案内されながら、使用人の目を搔い潜って進んで行く。
「以前、この先の部屋で父が招いた貴族達に何か言っているのを聞きました」
「ドミニク様……ありがとうございます」
「僕、やっぱりまだ怖いです。でも前よりも勇気はあるんです」
ドミニクはしっかりと前を見据えて歩いている。リオンをここまで連れて来てしまえば、自身も後戻りすることはできない。とあるドアの前で立ち止まって、ドミニクはリオンを振り返った。
このドアの向こうにオール侯爵がいる。ガラスの靴と思しき物と共に。
ドミニクがドアをノックする。
「父上、ドミニクです」
呼びかけるとすぐに返事があった。鍵はかかっていないらしく、ドミニクがそっとノブに手をかけるとドアはゆっくりと開いた。
侯爵はドアに背を向けていた。棚の上に置かれた何かに向かっているようである。
「ドミニク、面白い物を見せてやろう。こちらへ来なさい」
「……はい」
ドミニクはリオンをちらりと見て、背中を押して部屋に入るよう促した。小さく頷き、リオンは部屋に踏み込んだ。
息子が近付いてきていると思い込んでいる侯爵は何かを手に取って上機嫌な様子で振り返った。そして絶句する。
現れたのはサンドール子爵代理である。王宮に置いてきたはずのリオンが追い駆けて来て、まして追い付いているなど予想外だった。追い付くことが可能な距離まで王宮から離れた時、リオンの姿など後方に全く見えなかったからだ。
「ふざけた馬を持っているようだな」
「突然の訪問大変申し訳ありません。しかし、私にも譲れないものがあるのです。オール侯爵、それは」
侯爵の手元で何かが光る。
「――それは、ガラスの靴ですね」
侯爵がドミニクに見せようとした「面白い物」は靴の形をしていた。曲線が美しい、固いけれど柔らかさを備えた透明な靴。
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