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リオンの気持ちを感じ取っているのか、シトルイユの足取りは弾んでおりいつにもまして軽やかである。行きの全力疾走よりは遅いためリオンは安心してシトルイユに身を任せていた。
駆けて、駆けて、駆けて、リオンは王宮に辿り着く。
お茶会は既にお開きになっており、客人達もほとんど帰ってしまっていた。停まっている馬車がすっかり減っている近くでシトルイユを止まらせ、リオンは下馬した。すっかり顔馴染みになっている馬係にシトルイユを任せて、中庭へ向かう。
探している姿はすぐに見付かった。リオンは息を整えて、中庭に踏み込む。
シャルロットはベンチにちょこんと座っていた。会場の片付けをしている使用人達のことを眺めながら、時折指示を出しているようだ。
「シャルロット様!」
リオンの声に気が付き、シャルロットが顔を動かす。声が耳に届いた瞬間、振り向く動作の間、リオンを視界に捉えた時、花が開くように徐々に表情が明るく晴れやかになって行った。
「リオン!」
歩み寄って来るリオンに対して、シャルロットは「ガラスの靴は?」と訊ねた。リオンは侯爵から渡された箱をシャルロットに見せる。すると、シャルロットもベンチに置いていた箱をリオンに見せて来た。
箱の中身はガラスの靴。左右片方ずつ入っている。
「リオン、座って」
手を取って、シャルロットはリオンのことをベンチに座らせた。そして箱を二つ開けて靴を取り出す。
「わたくし、上手にできたわ。お茶会は大成功よ」
「そうですか。この二日間お疲れ様でした」
「そうね、たくさん疲れちゃった。でも貴方の顔を見たら疲れなんて吹き飛んだわ」
履いていた靴を脱いで、リオンはガラスの靴に足を入れる。シャルロットが拾った左側にはもちろんするりと足が入った。侯爵が持っていた右側に恐る恐る足を入れると、そちらもするりと足が入った。窮屈ではないし、隙間もほとんどない。靴はリオンの足にぴったりである。
わぁ、とシャルロットが声を漏らした。小さく手まで叩いている。
「……おかえりなさい」
リオンはガラスの靴を指先でそっと撫でる。一年半ぶりに、右足にガラスの靴が戻って来た。
「これでお父様とお母様に……皆様に貴方のことを認めてもらえるはずだわ。認めさせてやるわ」
シャルロットに手を引かれてリオンは立ち上がった。中庭の芝生をガラスの靴が踏む。そうして、二人は黙ったまましばらく見つめ合っていた。
先に動いたのはシャルロットだった。ふわりとドレスを揺らしながら、リオンに飛び付いた。勢い余ってその場で半回転してから、リオンはシャルロットのことを抱き返す。
夕暮れ時を知らせる鐘が鳴っていた。あの日十二時の鐘に慌てて駆け出したガラスの靴は、今日は大切な人と共にその場に留まり続けていた。
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