Verre-5 灰かぶりと王女

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Verre-5 灰かぶりと王女

 時計の針が回り、鐘が鳴る。  王都パンデュール中心部にそびえる大時計塔の鐘が鳴った。ダイス教の教会を始め、鐘を有する宗教施設の鐘が鳴った。モーントル学園などの学校の鐘が鳴った。あちらの建物でも、こちらの建物でも鐘が鳴った。  レヴオルロージュにとって時間は大切である。時間を確認し予定通りに動くことで農作業も貿易業も効率よく回るものだ。作業の途中に挟む休憩も時計があれば短すぎたり長すぎたりすることがない。そして、時を刻む時計と時を告げる鐘はシンボルのようなものだった。国にとって大事な日には、国中に鐘の音が響き渡る。普段使われていない鐘さえも、この日には久々の晴れ舞台だと言って鳴らされた。  六月十日。レヴオルロージュ王国の建国記念日である。  長い歴史のあるレヴオルロージュが国として成立したのがいつ頃なのかははっきりしていない。ここしばらくは平和な時間が続いているが、過去には争いもあったためその度に国は形を変えて来た。制定されている建国記念日は、サブリエ家が最高権力者となり大時計塔が完成した日付から取られている。 「リオン。リオン、準備はできたかしら」  ドアをノックしてシャルロットが部屋に入って来た。  控室として通された王宮の一室で、リオンは使用人達にもみくちゃにされていた。長い髪を梳いてアレンジを加えて束ね、薄く化粧もして、ガラスの君の衣装をきっちりと着せられ、これでもかというくらいに身形を整えられた。後方で見守っていたアンブロワーズは非常に満足げである。  シャルロットは椅子に座っているリオンに弾む足取りで駆け寄る。そして、頭のてっぺんから足の先までリオンのことをじっくりと見た。銀色の髪、青い瞳、濃紺の衣装、ガラスの靴。十三歳の誕生日に開かれた舞踏会で出会ったガラスの君が目の前にいる。そんなガラスの君は幼い日に出会い「結婚して」と思いをぶつけたリオンその人である。 「素敵! 素敵よ、リオン」 「シャルロット様、ありがとうございます。このようなことまでしていただいて」  リオンは少し照れ臭そうに髪の先をいじる。 「ふふん、当然よ。今日は貴方をみんなにお披露目する日なんだから。しっかりおめかししなくちゃ。ね、魔法使いさんもそう思うでしょ」 「えぇ、えぇ、もちろんです。ジョルジュ殿下配下の者達まで寄越してくれてありがとうございます。俺の大切なかわいいリオンがより素晴らしい存在になりました。見てください、こんなにかわいい。最高です。たまりませんね。やはり元が良いからですね」 「ほら、魔法使いさんもこう言っているわ」 「アンブロワーズの言うことは参考にしなくていいんですよ。でも、ありがとうございます、本当に」  リオンは足元に目を落とす。両足を包み込むガラスの靴は、先が少し触れて冷たい音を奏でた。
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