Verre-5 灰かぶりと王女

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 シャルロットが健闘したお茶会の翌日、リオンは彼女に連れられて国王と王妃に謁見した。数人の貴族が集められており、リオンは彼らの前でガラスの靴を履いて見せることとなったのだ。噂のガラスの君が落ちぶれたサンドール子爵の子息と知り困惑している者もいたが、両足がガラスの靴にぴったりと入ったのを見て誰も文句など言えなくなった。  ガラスの靴はオール侯爵が保管していたことになっている。確かにそうなのかと国王に訊かれて、リオンは首肯した。「ご子息が婚約破棄されてしまったというのに王女様の意中の相手の大事な靴を重厚に保管していたなんて素晴らしい」と幾人かの貴族に褒め称えられている侯爵に向かって、リオンは感謝の意を述べた。侯爵は心底面白くなさそうにリオンを見てから、周りの貴族に笑顔で応えた。  斯くして、リオン・ヴェルレーヌはシャルロット王女の婚約者候補として発表されることとなった。  リオンがガラスの君であることは認められた。しかし、現状のままではシャルロットの婚約者として確定させるべきではないとされた。サンドール子爵家はいつ崩れ落ちるか分からない。そんな家の息子を王女の正式な婚約者にして、何かあっては困るのだ。そのため、あくまで候補ということになった。シャルロットは不服そうだったが、リオンは致し方ないと了承した。リオンの存在がシャルロットの思い人として公になることには変わりはないし、不承知だと言えば何もかもなかったことになりかねない。  国王と王妃及び貴族達の話し合いの結果を伝えた際に、「貴方はそれでいいの」とシャルロットはアンブロワーズに訊ねた。ぷりぷりしているシャルロットに向かってアンブロワーズは恍惚そうな笑みを浮かべて答えた。「素晴らしく大きな前進ですよ。嫌なら俺がどうにかしましょうか」と。シャルロットはびっくりして、どうにかするのをやめさせた。 「さあ、わたくしのガラスの君。共に参りましょう。みなさんが待っているわ」  リオンは鏡台の前から立ち上がり、シャルロットの手を取った。かわいらしい花飾りとフリルの付いた手袋に包まれた小さな手が、シンプルな手袋で覆い隠された荒れた手を握る。  しっかりと手を掴んだのを確認すると、もう待ちきれないと言うようにシャルロットが駆け足で部屋を飛び出した。アンブロワーズと使用人達に見送られ、半ば引っ張られるようにしてリオンは廊下を進む。  幼い日、シャルロットに振り回されて別荘の庭を走り回ったことを思い出した。どこの誰だか分からないまま別れた令嬢は王女であり、今はこうして目の前にいる。 「シャルロット」  呼ばれて、シャルロットはスピードを緩めて立ち止まった。 「なあに?」 「私、今とても緊張しています。でも、それと同時にわくわくしているんです」
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