Verre-5 灰かぶりと王女

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「わたくしもよ。ふふ、おそろいね。一人じゃないから大丈夫よ、わたくしも、貴方も」  シャルロットは両手でリオンの手を包み込み、祈りを捧げるように胸元に寄せた。もう一度「大丈夫よ」と小さく言う。リオンを安心させるように、自分に言い聞かせるように。包んでいた手を離して改めて掴み直してから、シャルロットは歩き出した。足取りは先程までよりしっかりしていて、背筋もぴんと伸びている。歩幅を合わせるようにしながら、リオンは手を引かれて歩く。  建国記念日を祝うために、王宮に集まっている国民達がいる。記念の催しが開かれる際には通常出入りすることのできない平民達に向けて特別に中庭が開放されており、バルコニーから姿を現す国王と王妃、王子や王女達の姿を一目見ようとする者達がたくさん集っていた。シャルロットは先程家族揃って皆に姿を見せ、盛大な拍手で迎えられた。中庭に集う国民達の声はリオンの控室にも聞こえていた。  リオンは窓の外をちらりと見遣る。もしも、自分がお披露目されるのがバルコニーだったら。今以上の緊張で体がおかしくなっていたかもしれない。リオンがシャルロットに連れて行かれるのは大広間である。あの日シャルロットと再会した舞踏会の会場で、リオンは貴族や軍の高官、政治家、豪商、豪農などにお披露目される。ガラスの靴を履いて見せた時よりも、会議室に同席させられた時よりも、集まっている貴族の数は多いし貴族以外も来ている。それでも、中庭で国と王家を称える人数と比べれば随分と少ないように思えた。少ないのだと思い込ませてどうにか体裁を整える。  シャルロットが大きな扉を開けた。待ち受けていた高貴な者達の視線が一斉に動いた。リオンは深呼吸をしてシャルロットの後に続いた。  大広間に現れたリオンの姿を見て、誰かが「美しい」と吐息を漏らした。式典のためのドレスを纏ったままの王女にエスコートされて、ガラスの靴の令息が歩を進める。 「あれがガラスの君」 「舞踏会で見た……かもしれん」 「サンドール子爵の御子息だったのか……」  建国記念日の式典の為だけに王宮を訪れ、式典が終わった後に「まだ帰るな」と言われて若干不満そうだった者でさえ、ガラスの君の姿に目を奪われて見惚れた。 「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。こちらの方が、リオン様。わたくしの婚約者……候補。わたくの探していたガラスの君です」 「サンドール子爵ガエル・ヴェルレーヌが嫡男、リオン・ヴェルレーヌと申します」  ぱちぱち……と、まばらな拍手が上がった。リオンは高貴な者達に向かって礼をする。 「シャルロットの婚約者候補として、彼を立てることになった。サンドリヨン子爵だ。皆の者、よろしく頼むよ」 「えっ?」  国王の言葉にリオンが振り向く。驚いた顔をしているリオンを見て、国王は小さく頷くだけだった。拍手と歓声の中、疑問を口にすることのできないまま王女様のお相手候補お披露目会は終わった。
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