Verre-5 灰かぶりと王女

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「爵位継承は行えないから、レヴェイユ周辺の責任者はもちろんサンドール子爵名義のままで、サンドール子爵は君の父上のままだ。だが、その仕事をリオン君が代理としてではなく、本人と同様の権限を有して行えるようにしようと思う。共同で管理するような形だな。私の返信に子爵は同意していたが、君自身はどうだろうか」 「私は……」  国王が認めてくれた特別な待遇。ベッドと仲良しこよしになっている子爵のことを考えると、自分が動きやすくなるのは良いことなのかもしれない。思案するリオンのことをシャルロットが見上げている。  しばし考え込んだ後、リオンは国王と王妃を順に見た。 「私に、務まるでしょうか……。私は、まだ分からないことも多く……」 「もちろん、確認したいことがあれば都度子爵に確認してもいい」 「ねえ、リオン」  リオンと手を繋いだままのシャルロットが軽く手を引いた。リオンが国王からシャルロットへと視線を移すと、シャルロットは少し照れ臭そうに視線を逸らしてから改めてリオンを見た。 「サンドリヨン子爵、素敵な名前でしょう。わたくしが出した案なのよ。サンドール子爵家の、リオン……サンドリヨン……。あ、安直とか言わないでね! サンドリヨンってちゃんと意味があって」 「サンドリヨン……アシェンプテル。昔話に出て来る王子様の名前ですよね」 「そう! そうなの」 「小さい頃、別荘で私が貴方に聞かせた話ですね」 「えへぇ……」  シャルロットは「えへへ」「うふふ」「ぐふふ」と恥ずかしそうに笑っている。  飛んだり跳ねたり走り回ったりしていた小さなシャルロットを座らせて、小さなリオンは絵本を開いて物語を読み聞かせた。ページに書かれた文字を読み上げるリオンに体を寄せながら、シャルロットは見開きで描かれた美しい絵に目を輝かせた。  南西の大陸で語られる御伽噺。実話が元なのか、作り話なのか、今となっては誰にも分からない。昔々、とある国の王女の元に随分とみすぼらしい姿の生き物が現れる。周りの者達は生き物のことを気味悪がって忌避するが、王女は生き物の内面の美しさに気が付いてそれを手厚くもてなした。謎の生き物は実は別の国の王子であり、悪い魔法使いに呪われて姿を変えられてしまっていたのだ。王女の優しさと愛に触れて王子の呪いは解け、美しい姿に戻った彼と王女は結ばれ幸せになるのだった――。
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