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「慕われているのね、リオンのお父様は」
シャルロットはそっとリオンに身を寄せた。ガラスの靴で現れた王子様と見る、特別な花火。これからはそんな特別が当たり前になって行くのだろうか。ちらりと見上げると、リオンは花火を見て子供のように嬉しそうにしていた。花火に目を戻しながら、シャルロットはバルコニーの柵に置かれたリオンの手に自分の手を重ねる。
人気のなくなって来た大広間を颯爽と歩いてアンブロワーズがバルコニーへやって来た。リオンの名を呼ぼうとして、並んだ後ろ姿を見て口を閉じる。「もう少ししたら帰りましょう」と声をかけようとしていたのだが、その言葉は愉悦そうな吐息に溶けた。灰かぶりの幸せがこの魔法使いの幸せである。水を差すようなことはしない。
引き返して行ったアンブロワーズの足音は花火の音にかき消される。二人だけの空間で、リオンとシャルロットは花火を見上げていた。
「リオン、城下町のお店でお祭りの時だけの特別なお菓子を買えるのよ。帰りに魔法使いさんと一緒に買って食べてね」
「そうなんですね。楽しみです」
「ねえリオン、こっち見て」
呼ばれてリオンが顔を向けた瞬間、シャルロットは背伸びをしてリオンの頬に口を付けた。挨拶ではなく、愛情表現だ。驚きで目を見開くリオンのことをシャルロットはそのまま抱き締める。
「鐘が鳴っても、いなくならないでね。靴の合う人を探すのなんて、もうごめんよ」
「どこへも行きませんよ。いつでも会えます」
「見付けた、わたくしのガラスの君……。わたくしの、王子様」
リオンはシャルロットを優しく抱き返す。花火の光を受けて煌めく金色の髪を撫でてから、体を離す。そして、リオンとシャルロットはしばらくの間手を繋いで花火を見ていた。
灰かぶりに掛けられた魔法は、もう解けることはないだろう。
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