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「この間、お兄様と一緒に少し遠くまで出かけたの。そこのお店で見付けたのよ。手紙とか、書類とか、きっと今までよりも見たり書いたりすること増えたでしょ? だから、役に立つんじゃないかと思って」
「ありがとうございます。大事に使いますね」
灰かぶりはテーブルの上に広げられていた何かの資料の上に早速ペーパーウェイトを置いた。王女が覗き込むと、どうやら植物に関するメモ書きのようだ。ガラスを愛でる灰かぶりは、温室で世話をしている草花のことももちろん大切にしている。夏になると咲く花などについて書かれているようである。
夏の温室はどんな感じなの? と訊ねた王女に灰かぶりが説明をしていると、ガラス戸が開いて誰かが硝子庭園に入って来た。灰かぶりの名前を呼びながら、上機嫌な様子でガゼボに現れる。
「ようこそ王女様。お茶をどうぞ。マカロンもありますよ」
「まあ、ありがとう」
「私と君の分は」
「リオンは後で俺と一緒に濃厚なお茶の時間を楽しみましょうね。珍しい茶葉を市場で見付けたんです。味見していないものを王女様に出せませんし、まずは俺達で。ね?」
王女の前にお茶とお菓子を置いて、真っ白な青年は灰かぶりに微笑みかける。
灰の中に埋まっていた灰かぶりを引っ張り出し、綺麗にめかし込ませて王女の元へ向かわせた白い翼の魔法使い。今の灰かぶりに魔法の力はもう不要かもしれないが、灰かぶりの幸せを願う魔法使いの夢はまだまだ終わらない。
王女はお茶を一口飲んで一息つく。そして、マカロンを口に入れた。美味しさに顔をほころばせているのを見て灰かぶりは優しく笑う。それをさらに魔法使いが見守っていた。
「リオン、面白い話を仕入れて来ましたよ」
「今度は何?」
「カドラン港の市場にガラスのペンが並ぶらしいです」
農業と交易で栄えるレヴオルロージュ。海の向こうとレヴオルロージュを繋ぐ拠点がカドラン港である。貿易港であると共に漁港でもあるため、港の周辺にはありとあらゆる市場が大量に連なっている。
灰かぶりは寸の間考えてから、魔法使いに問うた。
「ペンって、字を書くペン?」
「はい、そのペンです。海の向こうから仕入れて来た物だそうですよ。数は多くないので、確実に手に入れるなら早く行かないと」
「海か……。ちょっと遠いな……」
でも気になるでしょう? と魔法使いは問う。灰かぶりは「欲しい!」という字を顔面に浮かべながら首を横に振った。
「ふふ、素直じゃないですね。かわいい」
「ねえっ! ねえ、リオン、魔法使いさん」
ティーカップをソーサーに置いて、王女が魔法使いの方を見た。宝石のような紫色の瞳は好奇心できらきらと輝いている。
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