Verre-1 灰かぶりと魔法使い

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 階段を降り、隅に追いやられているリオンの自室に入る。元々はもっと広い部屋を使っていたが、現在そこはナタリーの部屋になっている。今のリオンの部屋は物置扱いであまり使われていなかった小さな部屋だ。硝子庭園が完成してからは日中は温室にいることが増えたが、私物が置いてあるのはこの部屋であり、ベッドがあるのもこの部屋なので帰る場所はここである。  書状を机に置いて、リオンはベッドに倒れこんだ。体から少し遅れて、銀色の髪が広がりながら落ちて行く。 「お義母様達をこの家から切り離すことは不可能ではない。けれど、あの人達がいなくなったら父上はあの人達の行く末を案じて心を痛める。父上はお義母様のことを愛してはいたから。あと、ヴェルレーヌ家を破滅にも似た状況に陥れた女達がここを離れて上手く暮らせると思うか。誰かを餌食にするかもしれないし、誰かに何かされるかもしれない。それに……あんなんでも、家族だからさ……」  アンブロワーズは書状を手に取る。 「まあ、あの女達がどうなろうと俺の知ったことじゃないですけどね。俺は貴方が幸せになってくれればそれでいいので。ねえ、リオン。俺の魔法でどうにか上手くやってこれを国王に了承させてやりましょうか。特例で生前の爵位の継承を許可してもらいましょう」 「本当は父親に付いて回って色々教わる時期なんだろうな、他の家では」 「子爵になってしまいましょう」 「魔法なんて使えないくせに」 「爵位を手に入れれば、王女様にお目通りできるかも」  飛び起きたリオンを見てアンブロワーズがにやりと笑う。 「あっ、違う! 違うよ。起きようと思って起きただけ」 「子爵になれば王女に会えるかもしれませんよ。会いたいんでしょう、シャルロット王女に」  アンブロワーズはベッドに腰を下ろし、リオンに体を近付けた。そして包み込むようにして肩を掴む。  リオンの青い瞳とアンブロワーズのオレンジ色の瞳が真正面から向かい合う。視線がばっちりと合わさったところで、純白の翼が大きく広げられた。 「請え、願え、祈れ。我が魔の力によって御前を導いてやろう。御前の望みは何だ?」  圧倒的な存在感。強烈な圧迫感。御伽噺に登場する魔法使いが道に迷った子供と対峙しているかのような妖しげな雰囲気がアンブロワーズの周囲に広がる。  リオンは息を呑み、眼前に広がる白を見つめた。実際にはほんのわずかな時間に過ぎなかったが、まるで何時間も、何年もそうしていたかのような感覚に捕らわれていた。  窓の外から馬の嘶きが聞こえた。それを合図に、リオンはハッとしてアンブロワーズから飛び退く。 「びっくりした……。飲まれるかと思った……」 「魔法使いっぽかったでしょう?」 「君はたまに恐ろしいな。本当に魔法使いなのかと思ってしまう……」
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