Verre-1 灰かぶりと魔法使い

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 アンブロワーズは翼を畳んでベッドから立ち上がった。窓から見える厩にいるリオンの愛馬シトルイユに小さく手を振るが、シトルイユは草を食んでいて気が付かない。 「君の魔法でどうにかできるのならそうしてしまってもいいけれど、爵位については大事な話だからもっとちゃんと考えたいし、可能ならば父上ともしっかり話をしたい」 「貴方がそう思っているのなら俺はそれで構いませんよ。でも困ったら頼ってくださいね」 「いつもありがとう」 「ふふ。俺は貴方の魔法使いですからね。貴方が幸せになれるように、貴方の願いが叶うように、貴方の進む道が明るいものになるように、俺は俺の魔法で貴方を助けましょう」  アンブロワーズがリオンを振り向く。 「リオン、君の望みは何?」  逆光の中で純白が輝いていた。眩しさに目を細めながら、リオンはアンブロワーズを見る。 「私はガラスの靴を取り戻したい。この足にガラスの靴を履いて、シャルロットに会いに行く」 「会ってどうする?」 「会って……。会って、彼女の気持ちを確かめたい。あの夜のガラスの君にならば、話をしてくれるかもしれない。彼女がもしも……まだ、逃げ出したいと思っているのならば私は……」 「彼女を婚約者から奪い取る?」 「うばっ……奪うのは、良くないと思う……。手荒な真似はしたくない。私はただ……。まず、彼女に会ってその気持ちを確かめたいだけ。その後どうするかは、会ってから」  不意に部屋が暗くなる。窓の前でアンブロワーズが翼を広げたのだ。真っ白な魔法使いはかつて灰かぶりにそうしたように、靴をなくしたガラスの君に手を差し伸べる。  リオンは立ち上がり、アンブロワーズの手を取る。あの夜、薄汚れた灰かぶりは縋り付くように魔法使いの手を掴んだ。今は、共に歩んでくれる相棒にも似た存在への信頼を込めてそっと手を乗せた。 「俺のかわいいリオン。君の願いがどうか叶いますように」 「ありがとう、素敵な魔法使いさん」 「あぁ、この魔法使いに任せたまえ」  そう言って、アンブロワーズはウインクをした。
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