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Verre-2 オークションにて
世にも珍しいガラスの毒リンゴがオークションにかけられると聞き、リオンは日程を確認してオークションに赴くことにした。珍しいガラスを出品したり購入したりする人々に接触すれば、いずれガラスの靴にも辿り着くかもしれない。そう思いながら集めて来たガラスの数は温室を埋め尽くすほどになった。
シトルイユの背にしばらく揺られて到着したのは、いかにも怪しい雰囲気の廃屋の傍だった。金色のライオンを模した像が門に飾られているが、前足や尻尾が欠けてしまっている。
引き綱を持つアンブロワーズが笑顔で振り向く。
「着きましたよ、リオン」
「本当にここ? 怪しすぎない?」
「俺はちゃんと日程も場所も確認しましたよ。ここで合っているはずです」
リオンはシトルイユから降り、肩を撫でてやりながら廃屋を見遣る。周囲は雑草に囲まれ、建物も蔦で覆われており随分と長い間人の手が入っていないようである。
「夜には来たくない感じだね」
「元々は教会だったみたいですね。これ、おそらく遠方で信仰されているライオンの神様でしょう?」
「遠くから来た人がここに集って、そして去って行ったのか」
「ちょっと見て来ますね」
引き綱をリオンに渡し、アンブロワーズは一人と一頭から離れる。真っ白な姿はぼろぼろの建物と奇妙なコントラストを見せていた。やがて、壊れかけの塀の角を曲がって魔法使いは見えなくなる。
不穏な雰囲気にそわそわしているシトルイユを落ち着かせようと、リオンは首元を軽く叩いてやった。継母達から重労働を押し付けられた際に「馬がいればもっと迅速に動けます」と言って半ば強引に了承を得て手に入れた青鹿毛の牡馬は、今ではすっかりリオンのいい相棒である。
廃教会の周りを一周してアンブロワーズが戻って来た。翼やローブにくっついている葉や枝を払い落しながら、リオン達に歩み寄る。
「近くに他にそれらしい建物はありませんし、ここで間違いないはずです。それに、裏手に隠すように馬車が数台停められていました。この中に誰かがいるということです。行ってみましょう」
「そうか、分かった」
「シトルイユは馬車の近くに俺が繋いで来ますね。リオンは先に行っていてください」
「よろしく。……あ、待ってアンブロワーズ。羽に葉っぱが付いてる」
「おやおや、ありがとうございます。魔法使いでも後ろは見えませんからね」
シトルイユを連れたアンブロワーズと別れ、リオンは一足先に廃教会の壊れた門を潜った。まっすぐに進んで入口のドアに手を伸ばすが、押しても引いてもびくともしない。
どこかが歪んでしまっているのか、絡み付いた蔦が余程頑丈なのか、リオン一人の力ではどうすることもできない。そうこうしているうちにアンブロワーズが戻って来た。
「何やってんですか」
「開かないんだ」
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