Verre-2 オークションにて

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「でも来ている人がいるんだから中に入れるはずですよね。リオンが非力なんじゃないですか? 俺も手伝いますよ」  そして二人で押したり引いたりしてみたが、ドアはびくともしない。 「おかしくないか。他の人間はどうやって入ったんだ」 「よう、そこの兄ちゃん達もオークションの参加者かい」  声をかけられ振り向くと、恰幅のいい金のありそうな中年男性が使用人と思しき老人を従えて立っていた。リオンが事情を説明すると、男性は声を上げて笑った。 「ははは、そりゃそうさ。ここのドアは開かないよ。秘密の会場だから裏口から入るんだ」 「そうなんですね、教えてくださりありがとうございます」 「どれ、おじさんが案内してやろう。付いて来な」  裏口から入って地下に下りるのだと男性は言う。 「しかし珍しいな、若い兄ちゃんがこんなところに来るなんて。どっかのお貴族のお遊びかい?」 「えぇ、まあ、そんな感じです」  普段着としては灰や埃を被った破れる寸前の服を今でも着ていることが多いが、外出時は子爵家の人間として恥ずかしくない装いになっている。着回すことができる程度の数を揃えることができたのは比較的最近のことだ。  裏口のドアを開け、男性は薄暗い階段を下りて行く。リオン達もそれに続く。階下からは話し声が聞こえており、オークションの参加者が集まっているのが分かった。 「ところでその従者……」  男性は階段を下りたところで振り向き、アンブロワーズを見る。その目はまっすぐに純白の翼に向けられていた。 「貴族の兄ちゃん、アンタ面白いモノを連れてるな。そいつ、(ドミノ)だろ? どこで捕まえたんだ」 「えっ……」  「捕まえた」という単語にリオンの瞳が震える。この場を訪れるのは良心的な人間だけではない。アンブロワーズを連れて来るべきではなかったのかもしれない。このまま会場に足を踏み入れてしまって大丈夫なのだろうか。  無意識のうちにリオンは後退した。階段を一段昇り、アンブロワーズにぶつかって止まる。次の瞬間、背後から伸ばされた手が覆い被さるようにしてリオンを抱きすくめた。思わず声を上げてしまった耳元で、アンブロワーズがくつくつと笑う。 「『捕まえた』のは俺の方ですよー。俺の大切なかわいいリオン……。ふふ……」 「おい、離っ……」 「下卑た目で俺のリオンを見るな。キサマ達のような下劣なやつらと同類だと思うなよ」  リオンからは見えていないアンブロワーズの表情は強い殺気に満ち満ちていた。自分が下に見られたことよりも、リオンのことを自分を下に見る者達と同類だと認識されたことに対しての怒りのほうがはるかに強い。御伽噺に登場する魔法使いであれば、怒りで全身から魔力が溢れ出していただろう。
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