Verre-2 オークションにて

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 男性と使用人は驚いた様子で、会場の説明へと話題を切り替えて歩き出した。アンブロワーズに手を離すように言い、リオンは後に続く。怒った顔のままアンブロワーズはそれを追った。  廃教会の地下には小さな宴会場程度の大きさの空間が広がっていた。数人ならば共に社交ダンスを踊れるくらいだ。常連らしき男性に続いて現れた若い男達の姿を見て、談笑していた人々は皆揃って目を丸くした。少女と見紛うような場に似つかわしくない容貌のリオンと、機嫌が悪そうで今にも暴れ出しそうなアンブロワーズが同時に現れたのだから当然である。集まる視線はアンブロワーズに向けられているものの方が多く、いずれも好奇に満ちている。  ヒト以外の動物の特徴を持つ、ヒトに似た姿の者達。誰にも分からないくらい昔からヒトと同じように暮らしているが、姿や性質の違いから差別的な扱いを受けることは少なくなく、多くの国で長い間迫害の対象であり続けている。しかし彼らの持つ牙や爪に人間が敵うはずがなく、人間達は彼らのことを畜生と同じだと見下すと同時に危険な存在として恐れている。怖いからこそ、支配下に置いて優位に立ちたいのだ。  レヴオルロージュでは数代前の国王の治世において彼らへの強烈な圧政が敷かれ、多くが海を渡って遠方へと逃れて行った。現在は政治の上ではヒトもそれ以外も同じ国民として扱われ尊重されている。そして口に出すのも憚られるような呼び方をされたこともあった名もなき彼らには、彼らが有力な地位を築いている遠方の国での呼び名に則ってドミノの名が与えられた。その一方で、国内での数を減らした彼らを珍品として見る者が現れたため彼らの受難はまだまだ終わっていない。 「ドミノじゃないか。もしかしてその坊主が今日の品物か?」 「わはは、いいねえ」 「よう、そこの綺麗な姉ちゃん。あんたの連れてる鳥はいくらで譲ってもらえるんだい」  怒りが爆発しそうなアンブロワーズを制止して、リオンは汚らしい金持ち達の前に進み出た。 「私は男ですし、彼は私の友人です。彼への無礼な言葉を取り下げてください」  金持ち達はにやにや笑いながら、黙って二人のことを見ている。どうやら舐められているようである。 「俺はどう言われても構いませんが、リオンをこいつらと同類だと思われるのは許せません。今、俺はとても怒っています」 「私も不愉快だ。君のことを物扱いされるなんて……。今日のオークション絶対勝つぞ。こんなやつらに負けられるか」 「リオンが俺のために怒ってくれている。あ、ありがとうございます! 嬉しいのでよしよししてあげましょう!」 「やめろ」  リオンは頭上に迫って来たアンブロワーズの手を払い除ける。
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