Verre-2 オークションにて

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 魔法使いが灰かぶりを助けるために現れたのは、自身の母親が灰かぶりの母親に助けられたからである。違法なドミノ売買の標的にされて逃げ惑っていた鳩の女を助けたのがサンドール子爵夫人だった。当時身重だった鳩は子爵夫人に泣いて感謝をした。「この御恩は決して忘れません。貴女と貴女の家族が困った時には私がお助けしましょう」と。  母から恩人の話を聞かされて育ったアンブロワーズは母の想像以上にヴェルレーヌ家に執着し、継母達にいじめられても頑張る灰かぶりに心酔し、かわいらしく麗しいガラスの君を崇拝して今に至る。リオンは「助けた」「助けられた」というやり取り以上の詳しい事情を知らないのでアンブロワーズのことを時折鬱陶しいと感じることもあるが、信頼はしているし確かな絆もある。隣に立つアンブロワーズを好奇の目で見られて怒りを覚える程度には。  払い除けられた左手のリオンの右手と触れた部分を右手で愛おしそうに撫でているアンブロワーズのことを、リオンは怪訝そうに見ている。 「やあ! みなさん! 今日もようこそ!」  主催者らしき男性が現れ、歓声が上がる。そして瞬きをしているうちに出品された物が次々と競り落とされて行った。  オークションの会場に何度も出入りしているリオンも今日の勢いには若干押され気味だった。普段は貴族や豪商達が激しく、それでいて優雅に買い物をしている場に参加している。しかし、今日は貴族のように見えているが実態は分からない怪しげな人物と怪しげな金持ちと怪しげな商人ばかりが下卑た笑いを浮かべて品物を取り合っている。出品されているものも手にしていいのか分からないような法に触れそうな物ばかりである。 「毒リンゴが出て来ましたよ」 「よし手に入れてやる」  登場したのはリンゴの形をしたガラス瓶だった。高さはワイングラス程度で、中には黒々とした液体が三分目まで入っている。 「レヴオルロージュから南西に向かってずっとずっと進んだ先の某国で、王妃様が王女様を毒殺しようとしたことがあったそうです。本当かどうか知りませんけどね。その際に使った毒リンゴを模したガラス瓶です。中に入っているのは本物の毒薬だとか」 「危なくて怪しいやつらが欲しがるわけだね。……はい! 今の金額の二倍出せます! 四千でどうだ!」  会場がどよめきに包まれる。 「うわ、いきなり二倍は思い切りましたね」 「負けるわけにはいかないから」  リオンよりも高い値を提示する者は現れなかった。畏怖にも似た視線が場に似つかわしくない若い貴族に向けられている。 「ではそちらの……」 「リオン・ヴェルレーヌだ。そのガラス、貰って行くよ」 「おい、ヴェルレーヌって……」 「ガラスの競りに現れるっていう?」 「ガラス狩りのリオン……!」
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