Verre-2 オークションにて

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 暗がりに目が慣れてしまったからか、外に出ると日光が眩しかった。少し俯きがちにリオンは歩を進める。  アンブロワーズはリオンのことをよく見ている。恐ろしいほどよく見ている。気持ち悪いくらいよく見ている。本人が気が付かない変化にさえ、傍らに立つ魔法使いはよく気が付いた。  馬車が去って行った轍を眺めていたシトルイユが主の帰還に顔を上げた。綱の届く範囲で嬉しそうに歩み寄るが、リオンは俯いたままで声をかけることも手を振ることもしなかった。様子を窺っていたシトルイユが小さく嘶いたところでようやくリオンは顔を上げる。 「あぁ、シトルイユ。ごめん、気が付かなかった。……なぁ、私の顔はどこかおかしくなっているだろうか」  迷子が道を尋ねるようにリオンは言う。それこそ迷子のような顔で。アンブロワーズに指摘されても、驚きと不安がないまぜになった表情はリオンの顔から剝がれなかった。  顔を寄せて来たシトルイユを撫でてやりながら、リオンは小さく溜息を吐いた。シトルイユの押す力が強くなる。 「大丈夫、大丈夫だよ。いや、大丈夫ではないのかもしれないけれど……。そのうちそうなるだろうということは分かっていた。遅かれ早かれ、王女は婚約者と結婚する。私がどうしようとそんなの関係ないとばかりに。実際関係ないけれど。心のどこかで、ガラスの靴を見付けるまで待ってもらえると思っていたんだろうな。向こうはそんなの知らないのに」  シトルイユはぶるぶると何かを言いながら心配そうにリオンに擦り寄るが、リオンには馬の言葉は分からない。それでも気にしてくれているのは分かるので、優しく愛馬の顔を撫で返してやった。  そんな一人と一頭の様子を、外に出て来たアンブロワーズは木陰から見守っていた。リオンの後姿を見ながら一言、小さく呟く。 「急がなきゃ……」  と。
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