Verre-3 王女と婚約者

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Verre-3 王女と婚約者

 レヴオルロージュ第二王女シャルロットは元気でかわいらしい少女である。式典の際に小さな手をめいっぱい振る姿に心を打たれた人も多く、幼い頃から国民に愛される姫君だった。  小さな小さな王女は少しずつ大きくなって、十三歳の誕生日に婚約者が大々的に発表された。王女を愛する国民達は王女の幸せを願い、そして大人になって行く王女のことを祝った。王女も嬉しそうに笑った。  隠された本人の気持ちは、誰も知る由がない。           〇  リオンとアンブロワーズがガラスの毒リンゴをオークションで競り落とした数日後。王宮の中庭でシャルロットは婚約者と共に素敵なティータイムを過ごしていた。 「このマカロン美味しいわね! お土産ありがとう、ドミニク様」 「よかった、気に入っていただけて」  ティーカップをソーサーに置き、婚約者――ドミニクはにこりと笑う。  オール侯爵の息子、ドミニク・ジャンドロン。シャルロットの二つ年上で、王立モーントル学園の高等部で勉学に励む優等生である。普段は寮生活をしているドミニクだが、現在は春休みのためジャンドロン邸に帰省中だ。授業がないので楽しくお茶会ができる。  シャルロットは皿に置かれているマカロンを次々と手に取り、さくさくと食べ続けている。土産の茶菓子を気に入ってもらえてドミニクはご満悦である。 「シャルロット様。僕、貴女の笑顔が好きです。こうして一緒にお茶を飲んでお話する時間がとても好きです。王女様とこんなに仲良くなれるなんて思っていませんでした。貴女と良き友人になれて嬉しいです」 「どうしたの、急に。わたくしも貴方みたいなお友達がいてとても嬉しいわ」 「……その、ですね」  ドミニクは辺りを見回す。二人がテーブルを挟んで座っている周囲には、ドミニクの従者やシャルロットの侍女達が控えている。彼らに聞かれたくないのか、ドミニクはテーブルに身を乗り出すようにして小声で言う。 「僕達の結婚がそろそろなんじゃないかって、噂が広がっているらしいんですよ」 「え」  シャルロットは目を見開く。そして、目なんかには負けぬと口が大きく開かれた。 「えぇっ!?」  中庭に響く王女の悲鳴にも似た叫び。その場にいた使用人という使用人全員が身構えた。どうしたのかと何人もが迫って来るのに対し、シャルロットは何も起こっていないと告げる。そして使用人達が持ち場に戻って行ったのを確認してから、ドミニクと同じようにテーブルに身を乗り出した。 「ど、どこからそんな噂が」 「分かりません。誰かがそう思い込んで呟いたのが広まったのか、それとも、実際に陛下がぽつりと呟かれたのが広まっているのか」  ドミニクはマカロンを手に取って一口齧る。
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