Verre-3 王女と婚約者

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 シャルロットとドミニクは親が決めた婚約者である。王女と貴族の令息というよくあるお似合いの組み合わせだ。シャルロットの姉も伯爵家の息子と結ばれ、昨年盛大な結婚式が開かれた。しかしシャルロットと違い、姉は伯爵令息をパーティーの会場で見付け、その後何度も交流を重ねて己の物にし、両家を説得の後納得させて結婚に至ったのだ。姉のように情熱的に愛を謳うことのないシャルロットはお茶会でも夜会でもいつもおとなしく座っていたので、浮いた話はどこにもなかった。ぼんやりと椅子に座っているうちに、気が付けば隣にドミニクが立っていた。  最初の頃こそお互いにぎこちなかったが、今はもうすっかり仲良くなって親友とも呼べる関係になっている。仲は良好である。あくまで、友人として。  シャルロットは紅茶を一口飲む。 「わたくしは……。わたくしは、ドミニク様のこと好きよ。大切なお友達だもの」 「うん……」 「でも」 「あの舞踏会以来、僕はシャルロット様の婚約者という肩書に恥じないように過ごして来ました。陛下が僕のことをふさわしいと認めてくださったことはこの上なく光栄だし、家族からもすごく期待されているし……。僕自身貴女のことは好きですから。けれど、僅かでも……貴女が何か不満を覚えているのなら、僕はこの話、進めない方がいいんじゃないかと思うんです」 「ドミ――」 「やっぱり僕達、お友達でいたままの方がいいんですかね」  ドミニクは困ったように笑う。 「今の状態がとても心地よくて、この先なんて見えないんです」 「……わたくしも、そう。分かっているの、わたくし達は定められた運命を生きているんだって。でも……」 「……僕じゃ、駄目? それでもいいんです。僕に対して不満があるのなら、貴女が苦しむのなら、僕は父になんとか訴えようと思います」  話している言葉が終わりに近付くにつれ、ドミニクの声は弱々しくなっていった。王女との婚約を取りやめにしてくれなどと侯爵に直訴できるのか。マカロンを口に運ぶ手も微かに震えている。  シャルロットはティーカップの持ち手に指を滑らせて弄びながら、体まで震えてしまいそうになっているドミニクを見る。何かを言おうとして、躊躇う。 「シャルロット様?」 「あ……。あの……。ドミニク様はどこも悪くないわ。貴方は立派な方だもの。貴方に不満があるわけじゃあないのよ。もしそうだったらお友達をとっくやめているもの。悪いのはわたくしなの」  ティーカップから手を離し、シャルロットは立ち上がった。深呼吸をしてドミニクのことを見据える。 「ここでは周りに人が多すぎるわ。二人だけで話しましょう」 「えっ、二人だけで」 「わたくし達は婚約者なのだから、二人きりで話をしても何もおかしくないはずよ」 「確かに」 「さ、ドミニク様、付いて来てくださいな」
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