Verre-3 王女と婚約者

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 マカロンの残りを後で自室に持って来るよう侍女に告げ、シャルロットはドミニクを連れて中庭を後にした。通常ならば王女が男と二人きりになるなど、王女を守る使用人達は許さない。しかし、二人の関係が良好でドミニクが温厚な人間であることは周知なので止めに入るものは一人もいなかった。  廊下を進み、使用人に挨拶をされ、階段を昇り、使用人に挨拶をされ、それを数回ランダムに繰り返した後、二人はシャルロットの部屋に辿り着いた。ドアノブに手をかけ、シャルロットはドミニクを振り返る。 「わたくしはこれから、婚約者である貴方に対して残酷なことを言うかもしれないわ」 「分かった……。分かりました。身構えておきますね」  ドアを開けると、花とレースとフリルと宝石に彩られた豪奢な空間が広がっていた。ドミニクは思わず感嘆の声を漏らす。  シャルロットはまず、花瓶に生けてある季節の花について説明をした。次に、遠方の国で作られたという機械仕掛けのおもちゃを紹介する。さらに、先日入手した大きなネズミのぬいぐるみを見せびらかす。そして、箪笥を開けて奥の方から布に包まれた何かを取り出した。  ドミニクにソファに座るよう促し、シャルロットは向かい側に座る。 「それは」 「これは後で。順を追ってお話するわ」 「は、はい」 「では、わたくしは貴方に残酷なことを言います。わたくしは……。わたくしには、幼い頃に結婚を約束した相手がいるんです」 「えっ……。は、初めて聞きました」 「だって誰にも言っていないもの」  片手で数えられるほどの年の頃、シャルロットは王妃の実家が所有する別荘を家族で訪れた。暇を持て余していた時に近くの別荘でお茶会が開かれているのを知り、使用人達の目を盗んで飛び込んだ。その時に出会ったのが三つ年上の男の子だった。リオンがシャルロットに目を奪われた時、シャルロットもリオンに見惚れていた。  侍女がマカロンを持って来たところでシャルロットは言葉を切った。皿を置いた侍女が立ち去るのを見送り、口を開く。 「かわいらしい栗色の短い髪に、美しい青い瞳の子だったわ。女の子みたいにかわいい子よ」 「シャルロット様の三つ上なら、僕の一つ上か……。学園にいるかもしれないですね。名前は何というんですか?」 「リオンよ」 「栗毛のリオンさん。うーん、いたかな……」 「わたくし、リオンに言ったの。『大きくなったらわたくしのお婿さんになって』って。子供が勢いだけで言った言葉だけど、わたくしは本気だったのよ。とっても、とっても本気だったんだから」  でも……。とシャルロットは俯く。マカロンを一つ手に取り、齧る。
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