Verre-3 王女と婚約者

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 ガラスの君が落としていったガラスの靴を拾ったシャルロットは後日持ち主を探そうとしたが、婚約者の発表で大勢に声をかけられたり話を聞かれたりして、時間を確保することができなかった。そのままタイミングを逃し、彼の手がかりを手に入れることはできていない。ガラスの靴を回収し大事にしまっていることはこれまで誰にも言っておらず、ガラスの君に惹かれていることを知っているのは今話を聞かされたドミニクだけだ。  シャルロットは滑らかなガラスに指を滑らせる。 「ガラスの君……貴方はどこにいるの……」 「今のシャルロット様はガラスの君を好いていらっしゃるんですか」 「リオンのことはずっと好きよ! ずっと好きだったわ。でもどこにいるのか分からないの。分からなくて、それでも好きで、そしたら、ガラスの君が現れたの。もしもリオンに再会できたら、謝らないといけないわ。リオンは思い出になってしまった……。わたくし、ガラスの君のことばかり考えてしまうの。ガラスの君だってどこにいるのか分からないのに……」  ドミニクはマカロンを齧りながらシャルロットを見る。頭を抱えるシャルロットはうんうんと唸っている。  しばしの間、部屋の中にはドミニクがマカロンを食べる音とシャルロットの唸り声だけが聞こえていた。 「では、こうしたらどうですか」  ドミニクはガラスの靴を人差し指で軽く突く。 「国中から貴族令息を集め、この靴を履かせるんです。この靴がぴったり合う人がおそらくガラスの君でしょう。そして、都度名前を確認していけばリオンという人も見付かるかもしれませんよ」 「……ドミニク様、天才?」 「そっ、そんなんじゃないですよ」  シャルロットはガラスの靴を手に取る。ドミニクの言う通りの作戦を実行すれば、夢にまで見たガラスの君と再会できるかもしれない。あわよくば、幼き日より心を揺さ振られているリオンにも。  全員を一気には無理なので数人ずつになると思いますが……というドミニクの言葉はシャルロットの耳に入らない。必ず見つけてやるという強い意志が、ガラスを溶かしてしまうのではないかというほどの熱を持った視線となってガラスの靴に向けられる。 「……ドミニク様」 「はい、シャルロット様」 「わたくしは、貴方に残酷なことをしてしまうわ」  ガラスの靴を抱き、申し訳ないという顔になるシャルロット。対して、ドミニクは困ったように、それでいてどこかすっきりしたような顔をしていた。
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