Verre-4 混乱、歓喜

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Verre-4 混乱、歓喜

 第二王女シャルロットがオール侯爵の息子ドミニクとの婚約破棄を宣言したという話題は、目にも止まらぬ速さで国中を駆け抜けて行った。あの場に居合わせた貴族達の噂話は貴族や豪商達に瞬く間に広がり、王宮付きの記者が大きすぎる見出しで新聞に掲載したため庶民の間にも知れ渡り、モーントル学園に通うドミニクの同級生や先輩後輩の耳にももちろん入り、レヴオルロージュ中が騒ぎに包まれたため隣国にも行き届いた。  ヴェルレーヌ家が暮らす村、レヴェイユでも噂話と新聞が飛び交い、婦人達の井戸端会議が大いに盛り上がっている。  騒ぎが大きくなって大きくなって留まることを知らないのは、王女が貴族令息に対して結婚式発表の場で婚約破棄宣言を叩き付けたというセンセーショナルな話題だからということだけが理由ではない。問題は王女がその次に言った言葉である。  曰く、一年半前の舞踏会に現れたガラスの君を探していて、彼と結婚したいのだと。 「リオン! リオン、大変なことになっています!」  硝子庭園のガゼボでグラスを磨いていたリオンは、大声を上げて飛び込んで来たアンブロワーズに驚き小さく悲鳴を上げた。手元が狂い、深紅が美しい切子が床に向かって落ちて行く。  表面に切れ込みの模様があるカットグラス。遥か遠方の国にて作られた切子と呼ばれるカットグラスはレヴオルロージュでは貴重な品であり、リオンが所持しているのはいずれもコレクターと激しい戦いの末に手に入れた物である。  切子が床に落下しあわや大惨事というところにアンブロワーズが滑り込み、何とか事なきを得た。 「うわ、大丈夫? どこかすりむいたりとか服が破れたりとかしてない?」 「俺のことなど気にしないでください! 貴方のコレクションが無事で、それで貴方が喜んでくれれば俺も幸せです!」 「あぁ……そう……」  アンブロワーズは立ち上がり、リオンに切子を差し出た。真っ白なローブには土が付いてしまっている。 「ありがとう。それで、慌ててどうしたの」 「大変なことになっているんですよ。村中大騒ぎで」 「えっ、何。私は何か対応を迫られているということ。村人の一揆?」 「いえ、そういうのではなくて」  ローブの土を払って、ベストのポケットから畳んだ新聞を取り出す。リオンは切子をテーブルに置いてから、アンブロワーズから新聞を受け取った。そして大事件が起こったと言わんばかりの大きな文字で書かれた見出しに目を落とす。  最初に、青い瞳が震えた。次に、目と口が大きく開かれた。そして最後に、大きな声が出た。 「『シャルロット王女、ドミニク・ジャンドロン氏との婚約破棄宣言!』!?」 「報道関係者は自転車と馬と馬車と蒸気自動車総動員で各地を飛び回っているし、彼らからもたらされた情報に人々は大騒ぎですよ」 「ど、どういうこと」
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