Verre-4 混乱、歓喜

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「書かれている通りですよ。シャルロット王女がドミニク様との婚約を破棄すると宣言しました」 「なんで」  新聞を手にリオンはアンブロワーズを見る。 「そういう情けない顔は俺以外には見せないでくださいね。次の記事を見てください」 「次……? 『ガラスの君はいずこ! 王女のお相手は誰?』!? 何!? 私!?」 「かわいい。……じゃなかった。書いてある通りです。シャルロット王女は一昨年の誕生日に開かれた舞踏会で一緒に踊ったガラスの靴のガラスの君を探していて、見付かったらその人と結婚すると宣言したらしいですよ」 「えっ、えぇっ」  リオンは新聞を手にしたままガゼボの中をぐるぐると回り始めた。内容を繰り返し呟きながら確認し、徐々に歩く速度が上がり、最終的には新聞を放り投げて頭を抱えた。  ナタリーに広い部屋を奪われ狭い部屋に押し込まれてから、自室内での移動距離が大幅に減った。移動しながら少しずつ物を考えることのあったリオンは狭い部屋でも無意識下でそれを実行し、結果として広い場所でも狭い範囲を動いて思考を巡らせるようになった。元々は母と共に街や草原をのんびりと歩き回りながら物の仕組みや物の名前などを確認していたことから来る癖だったのだが、灰を被っているうちにごくごく狭い場所をせわしなく動くように変わってしまったのだ。  リオンは力なくベンチに座る。新聞を拾ったアンブロワーズが、もっと記事を読むように言ってテーブルに新聞を広げた。 「大変なことになっているじゃないか」 「だからさっきから大変だって言っているでしょう。ほら、ここも読んで」  アンブロワーズが指し示した部分には『国中の若い男にガラスの靴を履かせて、ぴったりと足の入った人が「ガラスの君」候補』とある。文章の横にはガラスの靴を大事そうに持っているシャルロットの写真が添えられている。 「ガラスの靴だ……。シャルロットが持っていたのか……」 「王宮で落とした方は王女が拾っていたようですね」 「ちょっと待ってくれ。つまり、シャルロットはあの夜靴を拾って、それを大事に持っていて、持ち主を探していた。そして、婚約破棄して、ガラスの靴の持ち主と結婚すると言っている」 「そうなりますね」 「シャルロットが恋焦がれて結婚したい相手は……私?」  リオンは自分に人差し指を向ける。この上ないくらい動揺しているリオンのことを見ながら、アンブロワーズはにこりと笑って頷いた。  落としてしまったガラスの靴を取り戻して、舞踏会の時の姿となってシャルロットに会いに行く。そのためにありとあらゆるガラスを追い駆けていたが、ガラスの靴をシャルロットが手にしているとは想定外だった。それに加えてガラスの君と結婚したいと言っている。リオンは喜べばいいのか困ればいいのか分からなくなり、言葉になってない音を口から漏らす。
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