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「明日はわたくしの誕生日。日付が変わると同時に祝われて、そして……。そして、婚約者が発表されるのよ。わたくし自身の気持ちなんて知らずに、きっとみんなおめでとうって拍手するわね」
「おめでたいことなので、おめでとうと言うのは当然だと思うのですが」
「そうね。でもわたくし、運命の人って自分で見付けるものだと思うの」
「……いい考えだとは思います」
「ありがとう。でも、お父様達に決められてしまうのよ。……ねえ、貴方。このまま一緒に抜け出してしまわない?」
「えっ。シャル――」
鐘が鳴った。十二時だ。
灰かぶりはダンスをやめ、王女から離れる。十二時になれば魔法は解けてしまう。あと十一回鳴る鐘が止まらないうちに抜け出さなくてはならない。大勢が見守る中でみすぼらしい姿に戻ってしまうわけにはいかない。
「貴方、どうしたの」
「申し訳ありません、シャルロット様。私はもう帰らなくては」
「えっ、何。そんな、いきなり。お忙しいのかしら?」
二人のダンスを眺めていた一同に深々とお辞儀をしてから、灰かぶりは大広間を走り出た。装飾の多い衣装を纏っているうえに足元はガラスの靴だというのに、その動きはまるで牡鹿が草むらを駆けるかのように軽やかで強いものだった。
どこの令息なのか、と王女が呼び止める声にも答えず、灰かぶりは階段を駆け下りる。あまりにも慌てて走っていたものだから、その足からガラスの靴が片方脱げてしまった。拾っている暇などない。灰かぶりはそのまま走る。
ドレスを摘まんで、王女はゆっくりと階段を下りた。転がっているガラスの靴を拾い上げ、灰かぶりの去って行った方を少し寂しそうに見つめる。
「素敵な方……。貴方は……誰なの」
十二回目の鐘が鳴る。
退場したどこかの令息のことなどもう忘れ、人々は楽しく踊り続けている。お誕生日のお祝いをするよという声を背に聞きながら、王女はガラスの靴を手にしたまましばらく階段を見下ろしていた。
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