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「貴族達の噂話、聞いて来ましたよ」
「どんな感じだった」
「シャルロット様のガラスの君探し、面白がっている方と怒っている方は半々といった感じですね。好きな人と結婚した方が王女の気持ち的にもいいのではないかという意見もあれば、婚約破棄なんてよろしくないし国中が騒ぎになっていて大変だという意見もありました」
「そう」
近くに誰もいないことを確認してから、アンブロワーズはリオンに近付いてローブで包み込むようにした。声を潜めて、続きを言う。
「オール侯爵は大変ご立腹です」
「うわ」
「めちゃくちゃ怒っています」
「怖い」
婚約破棄を叩き付けられたオール侯爵はこの上なく憤怒していた。張本人であるドミニクが気にしてない様子なのも侯爵を苛立たせている原因の一つである。シャルロットが探しているというガラスの君が見付かった時、侯爵はガラスの君に対して何をするか分からない。周りで見ている使用人達も、他の貴族達も、侯爵を刺激しないように接することに必死だった。
アンブロワーズから聞かされたオール侯爵の現状に、リオンは身を震わせる。怯えるリオンを見てアンブロワーズは口元を緩めるが、リオンの目には入っていない。
「何かあったら俺が貴方を守ってあげますからね。むかつくおじさんの一人や二人、俺がどうにかしてやりますから」
「絶対物騒なことになるからやめてね」
廊下を歩く足音が複数近付いてきたことに気が付き、アンブロワーズはリオンから離れた。通り過ぎて行く数人の貴族とその従者に対して二人は軽く礼をして見送る。
「靴を履く順番が回って来るの、楽しみですね」
「侯爵の話を聞いたらなんだか不安になって来たな……」
リオンは少し俯いて、小さく溜息を吐いた。
ガラスの君を探し回るシャルロット王女は数多の令息にガラスの靴を履かせたが、お目当てのお方にはいまだに会えていない。そんな記事の掲載された新聞が出回ったのはリオンがジョルジュと話をした二日後だった。
一体全体どこにいるのか。ガラスの君なる不思議な男への注目は、徐々に高まっていった。
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