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「灰かぶりは家にいたはずだ。あいつは舞踏会には行っていない」
「でも、せっかく来てくれたんだからリオンに靴を履いてもらったら?」
ナタリーは継母と姉の前に出て、靴を持つ女性に歩み寄る。
「だって、もしも靴が合ったらリオンは王女様の結婚相手よ! そうしたらきっと、家にもいいことが起こるわよ!」
「ふむ、確かに。それはそうだな。どうしようか、母上」
「ん。そうね……。そう言われると……」
「では俺が呼んで来ますから待っていてくださいね! リオン! リオンー!」
継母達が答えを出す前に、彼女達を押し退けるようにしてアンブロワーズが屋敷に入った。「五月蝿い鳩だね!」という継母の声など耳には入っていない。入っていたとしても、彼がそれを気にすることはないだろう。
使用人の女性と御者の男性がアンブロワーズの勢いに唖然としている後ろで、豪奢な馬車のドアがゆっくりと開いた。
ふわっ、と花の甘い香りが周囲に広がった。馬車の中にいた人物が下りて来る。最初に、靴が外に出て来た。まだまだ子供な小さな足を覆うのは、極上の紅を塗ったように赤い靴である。爪先から踵まで、寸分の狂いもなく丁寧に作り上げられた靴だ。次に、ドレスが裾から順に姿を見せる。春を感じさせる薄ピンク色を基調としたドレスは、国中からフリルを集めて来たかのようにふわふわだ。柔らかなフリルと細かなレースの間から、花の飾りがちらりと見え隠れする。そして、リボンの付いた手袋が馬車に添えられ、ひょっこりと顔が出た。光を集めたような金色の髪がふわりと風に揺れ、宝石に似た紫色の瞳が静かに瞬きをする。
使用人の女性と御者の男性が振り向き、想定外の降車に慌てて声を上げる。継母と義姉達は煌びやかなその姿に目を見張った。
「ごきげんよう。初めまして。わたくしはシャルロット・サブリエです」
王女の登場に驚きのあまり立ち尽くしている継母達に、シャルロットは小走りで近付いた。
「あの、先程、なんと言いました? こちらにいらっしゃる殿方はリオン様というのですか?」
「お、王女様っ! こんなに近くでお目にかかれるなんて光栄です! 私、とっても嬉しいわ!」
「美しい。そしてとてもかわいらしい。見惚れてしまいそうだね。王女様でなければ口説き落とすのに」
「あのぅ……」
ナタリーとクロエは感激しているだけで返答になっていない。シャルロットは困った顔をして継母を見る。継母もびっくり仰天しているが、娘達ほど会話が成り立たない状態ではない。
「あの、お母様。こちらにいらっしゃるのはリオン様なのですか?」
「おかっ、お母様! あぁ……そうですよ王女様。家にいるのはリオンという子です。けれど王女様の探し求めている相手にふさわしいかどうか……。あの子は灰かぶりだから……」
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