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「灰かぶり?」
シャルロットは小首を傾げる。どういう意味かと訊ねようとしたところに、慌ただしい足音と声が近付いて来た。
「おい、引っ張るな!」
「リオン、早く! ほら! さあ!」
「もう、なんなの」
アンブロワーズがリオンの腕を引いて戻って来た。リオンは自分のことを見ているシャルロットに気が付くと、アンブロワーズの手を振り払って一歩後退った。
底が外れてしまいそうな靴が床の上をずるずると滑る。どれくらいの間履き続けているのか分からない、履き潰された靴である。ぼろぼろの靴と長さの足りないズボンの間には素足が覗き、やり場をなくして虚空を撫でる手はよれよれの袖から出ている。体の動きに合わせて銀色の髪が揺れた。掃除をしている最中に引っ張り出されたため、雑に束ねた髪には綿埃がくっ付いていた。青い瞳は不安そうにシャルロットに向けられている。
シャルロットはじっとリオンのことを見ていた。大きな目はリオンを捉えて逃がさない。
「ごきげんよう。こんにちは。わたくしはシャルロット・サブリエです。貴方のお名前は?」
「……リオン。リオン・ヴェルレーヌ」
「リオン様。わたくしは今、この靴に合う方を探しています。足を入れていただけますか」
使用人の女性が靴を手に前に出る。座って履けるように、御者の男性が小さな椅子を出してくれた。
「わ、私のようなみすぼらしい男は王女様の探しているお相手ではありません……。お引き取りください」
「は!? 何言ってるんですかリオン。このために俺達は……」
「こんな格好じゃ……」
外出する時の比較的上品な格好での再会を想定していたリオンは、アンブロワーズの影に隠れるように後ろに下がってしまった。しかし、すぐに前に押し出される。
「靴履いて! 靴!」
「でも」
「リオン様、お願いします。わたくし国中の貴族令息の皆様にお願いしているので」
アンブロワーズに強引に椅子に座らされ、リオンは観念してぼろぼろの靴を片方脱ぐ。使用人の女性が靴を足元に置こうとすると、シャルロットが横から手を出した。女性から靴を受け取り、シャルロット自らが跪いて靴をリオンの前に置いた。ふわふわのドレスが地面に広がって土が付着するが、シャルロットは気にせずにリオンのことだけを見ている。
アンブロワーズに背中を押され、シャルロットに見つめられ、リオンは静かに左足をガラスの靴に入れる。数年前までぐんと伸びていた身長も最近は落ち着いているため、足の大きさもほとんど変わっていないはずである。意を決して、するりと足を滑り込ませた。
一同は固唾を飲んで見守る。
「あっ、入っ――」
「やったー! ほら! やった! リオン! やった! 当然ですよ! 俺が丹精込めたんですから!」
「貴方っ! リオン様、貴方がわたくしのガラスの君なのですね!」
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