Verre-2 この靴にぴったりな人

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 アンブロワーズが後ろから抱き付き、シャルロットが手を掴んでぎゅっと握る。前後両方から捕まえられて、リオンは身動きが取れなくなってしまった。  ガラスの靴にはリオンの左足がぴったりと入っている。窮屈ではないし、隙間もほとんどない。シャルロットが靴を手に国中を回って令息達に履かせた中で、こんなにもぴったりと履けたのはリオンが初めてだった。  リオンが靴を履けたことに、継母達は驚いて顔を見合わせた。舞踏会に現れたガラスの君と家で仕事に追われていたリオンが結び付かない三人は、靴がぴったりだったのは偶然だと思っている。こんな偶然があるのだろうかと、目を丸くした。 「灰かぶり……リオン、おまえどうしてその靴が」  継母に問われて、答えたのはアンブロワーズだった。リオンの体に腕を回したまま、継母に嘲笑に似た顔を向ける。 「俺がいつからこの家に来ているか覚えていますか?」 「鳩は一昨年からだろ。一昨年の秋頃」 「舞踏会の後からですよ。どうして俺がここにいるのか。それは俺が、リオンに魔法をかけた魔法使いだからです」 「意味の分からないことを言うんじゃないよ」 「待ってお母様。つまり、アンブロワーズはリオンに対して何かをしたってことじゃないかしら。魔法で……絵本の魔法使いのように手助けしたとか」  継母、クロエ、ナタリーの視線がアンブロワーズに向けられる。  舞踏会の翌朝、何もおかしいことなどないと言うように、ごくごく自然な行いであるかのように、アンブロワーズが屋敷に現れた。不審者の登場に三人の女が困惑しているのを全く気にせずに、当たり前のようにリオンの隣に並んでべたべたとしていた。リオンの手伝いをしているのを見て、灰かぶりの生活に音を上げたリオンが使用人を雇って連れ込んだのだと認識した。シトルイユを買って来た時と同じだ、と。  この鳩はただの鳩ではないのか? 三人に見つめられて、アンブロワーズはリオンを捕まえたまま得意げに笑う。 「衣装とガラスの靴をリオンに渡したのは俺ですよ。貴女達に邪魔をされて『これじゃあ舞踏会へ行けないわ。よよよ……』と泣いていたリオンを助けたのは俺です」 「泣いてない」 「彼こそがガラスの君! 王女様のお相手!」 「やっぱり貴方がわたくしのガラスの君!」 「二人で挟むのやめてくれるかな」  立ち上がったシャルロットがリオンの手を強く引いた。アンブロワーズの腕から離れて、リオンも椅子から立つ。そしてそのままシャルロットはぐんぐんとリオンのことを引っ張った。使用人の女性と御者の男性も加わって、半ば強引に馬車に押し込もうとする。 「わたくしのガラスの君! 共に城まで来てください!」 「えっ! ちょっと、今ですか!?」  この格好で!? という声に聞く耳を持たず、王宮からやって来た三人はリオンのことを馬車に乗せた。
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