Verre-2 この靴にぴったりな人

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 使用人の女性が「えっ」と声を漏らすが、彼女は慌てて口を抑えた。窓から外を眺めて、シャルロットとリオンの会話をあくまで聞いていないという形を取る。  リオンは重なっている自分達の手に目を落とす。かさかさのくたびれた手に触れるシャルロットの手が、柔らかくて温かい。思わず指を動かすと、シャルロットは強く握り返して来た。 「貴方はモーントル学園にいなかった。学園にいればもっと早く会えたのに。貴方の歳ならまだ在籍していてもいいでしょう? それとも、わたくしのように家庭教師を雇っているのかしら」 「学校には行っていません。行けるような状態ではなかったから」 「村の外れ、森の中のお家……あの別荘地に別荘を持っている家のお家があの大きさだとは思えないの。以前別荘の持ち主達も探したけれど、そこに貴方はいなかった。貴方の家が持っていた別荘はもうなくなっているか、誰かの物になっている。ねえ、リオン。何かあったの」  シャルロットの紫色の瞳がリオンを見つめる。ばっちりと補足されたリオンは逃げることなどできない。リオンはシャルロットから手を離し、膝の上に載せて居住まいを正す。  幼い日シャルロットと出会った、その後のこと。リオンはヴェルレーヌ家に起こった出来事を掻い摘んで説明した。シャルロットはぼさぼさの髪からぼろぼろの右足の靴まで、リオンのことを見る。怒っているのか、悲しんでいるのか、シャルロットの手は微かに震えていた。  見た目がみすぼらしいだけではなく、家まで昔とは違う状態になっている。今度こそ相手にふさわしくないと失望されてしまっただろうか。話しているうちに徐々に俯いていたリオンが顔を上げると、水に濡れた紫が目に入った。ぽたり、とシャルロットの目から雫が落ちる。 「わ……。で、殿下! すみません! 殿下を泣かせてしまうなんて。私は何かの罪に問われてしまうのでしょうか」 「わたくしが勝手に泣いているだけだから貴方は何も悪くないわ」 「同情しますよね、こんな……。いいんですよ無理に憐れんで泣かなくたって」 「違うの。わたくしは悔しいの。貴方が辛い時間を過ごしたことはとても悲しいことだわ。話を聞いているだけでわたくしまで悲しくなってしまいそう。わたくしは……。わたくしは、貴方に手を差し伸べられなかった自分が……貴方を助けてあげられなかったのが悔しいの。大切な人一人守れないなんて、王族として恥ずべきことだわ!」  わぁっ、と声を上げてシャルロットが泣き出してしまった。  別荘で顔を合わせていた頃。無邪気に走っていたシャルロットがリオンの目の前で転んだことがあった。幸いにも怪我はなかったが痛みはあり、ワンピースにも土が付いてしまった。リオンは土を払ってやり、わんわん泣くシャルロットに寄り添った。
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