Verre-3 灰だらけのガラス

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Verre-3 灰だらけのガラス

 馬車が王宮に着く頃にはシャルロットは落ち着きを取り戻していた。王女様然とした様子で出迎えてくれた兵士に挨拶をする。  ガラスの君を探し回っている王女が男を連れて帰って来たので、兵士や使用人達は「この男がガラスの君なのだ」とリオンのことを興味深そうに見た。しかし、王女が連れているのはみすぼらしい格好の貧しそうな男である。みんな揃って怪しむように、疑うようにリオンを目で追う。  一年半前。一昨年の秋の舞踏会。あの場に現れたガラスの君は広間にいた人々の注目の的になった。皆が見惚れたが、彼が皆の目に触れたのはほんの十分弱程度。眩しい姿が印象に残ったとしてもその姿をはっきりと覚えている者は少ない。一年半も経てば、そこにいたという記憶さえ曖昧になってしまう。髪型や着ている物が全く違えば、例え顔を覚えていたとしてもすぐには同じ人物だとは分からない。  シャルロットはリオンを連れて王宮の廊下を歩く。同行していた使用人の女性はガラスの君が見付かったことを報告しに向かったため、今は二人きりだ。 「シャルロット殿下」 「いつ言おうか考えていたのだけれど……。シャルロットでいいわよ。小さい頃と、舞踏会の時と一緒」 「シャルロット……様」 「それでもいいけど……」  リオンは階段横で立ち止まる。シャルロットも立ち止まり、リオンのことを見上げる。 「私は貴女に会うために舞踏会に行きました。あの日出会った貴女にもう一度会いたくて……。貴女が王女だったと知って驚きました。王女である貴女ともっとたくさん話をするために、ふさわしい姿になれるようにこの一年半努力していたのですが、ご覧の通りまだまだ恥ずかしい格好で……。本当はもっと、多少、少し、わずかでも……心構えのできた頃にお会いしたかったです」 「でものんびりしていたらお父様に無理やりドミニク様と結婚させられてしまっていたわ。あっ、ドミニク様はいい人よ。大切なお友達だもの。誤解しないでね。わたくしは貴方にようやく会えてとってもとっても嬉しいわ」  にこりと笑うシャルロットに、リオンは表情を緩ませる。穏やかな日差しの下で暖かな風が吹き抜けるような、優しく包み込まれる感覚だ。別荘の庭で無邪気に遊んだ日々が、分厚い回顧録を勢いよく捲るようにリオンの頭の中に展開された。  自分はこの王女様の虜なのだ。改めてそう思いながら、リオンは高鳴る己の鼓動を感じた。  ほんのり頬を赤らめるリオンと、黙ったままの彼に目をぱちくりとしているシャルロット。向かい合って見つめ合っている二人の元に、階段を下りて来た人物が歩み寄って来た。柔らかな金髪に、宝石のような紫色の瞳。煌びやかな衣装が光を散らす。 「お帰りシャルロット」 「お兄様! ただいま戻りました。お兄様、わたくしついに見付けたの! こちらがわたくしのガラスの君よ!」
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