Verre-3 灰だらけのガラス

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「見付かったのか。よかったよかった。ごきげんようガラスの君。妹が迷惑をかけてはいないだろうか」  ジョルジュは思っていたよりも貧相な様子に驚きつつも、ガラスの君に手を差し出す。リオンは躊躇いがちに手を出し、握手する。 「迷惑だなんて、そんな」 「ジョルジュ・サブリエだ。よろしく」 「……リオン・ヴェルレーヌです」 「え」  名前を聞いてジョルジュは声を上げて瞳を震わせた。そして妹の連れて来たガラスの君を頭のてっぺんから足の先までじっくりと見て、もう一度「えっ!」と声を上げる。  ジョルジュ王子は議事堂に用事がある際、サンドール子爵代理のリオンを見付けると弾む足取りで近付いて来る。一年ほど前から子爵の代理として議会に顔を出しているリオンは、ジョルジュにとって数少ない仕事で顔を合わせる同年代だ。つい先日も議事堂の廊下でガラスの君について話をしたばかりである。 「リ、リオン殿……!?」 「……はい」 「お兄様、彼を知っていたのですか?」 「あぁ、うん……。サンドール子爵の御子息で、体調を崩している子爵の代わりに議会に来てくれているんだ。歳が近いから、よく話し相手になってもらっている。まさかリオン殿がガラスの君だったなんて。それに、その格好は一体……」  廊下で話をしていては、誰に聞かれてしまうか分からない。ヴェルレーヌ家が勢いを失っていることは周知だが、継母と義姉がリオンを灰かぶりにしていることはどうにか隠している。リオンが場所を移したいことを伝えると、シャルロットは階段を指し示した。元々彼女の部屋を目指して歩いていたのだ。秘密の話はシャルロットの部屋で続けることとなった。ジョルジュも二人の後を付いて、下りて来たばかりの階段を昇った。  廊下ですれ違う使用人や要人達は、王子と王女が連れている貧民の男を怪訝そうに見ていた。シャルロットの部屋に辿り着くまで、王宮の内装と釣り合わない装いに皆が目を向け続けた。  ドアを開けると、花とレースとフリルと宝石に彩られた豪奢な空間が広がっていた。リオンは部屋に入ったところで立ち止まり、部屋を見回した。日々硝子庭園でガラス達が反射し拡散する光を浴びているリオンにとっても、シャルロットの部屋は煌びやかなものだった。  リオンにソファに座るように言って、シャルロットとジョルジュはその向かいに並んで座った。国の宝であり希望である王子王女が揃っているという状況に置かれて、緊張しない者は少ない。リオンは背筋を伸ばして姿勢を正し、口を真一文字に結んで正面を見据える。 「リオン殿、話したくないのであれば無理に話す必要はない」  言っても大丈夫だろうか。言わない方がいいだろうか。リオンは少し迷ってから、口を開いた。 「これは口外しないでいただきたいのですが」  シャルロットとジョルジュは顔を見合わせてから、リオンを見て大きく頷いた。
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