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Verre-4 王女様のお相手
玉座の間。豪奢な椅子に腰かけた国王と王妃が娘のことを見ている。シャルロットの傍らにはジョルジュが寄り添っているが、あくまで隣に立っているだけである。今日の両親と妹の会話に割り込む予定はない。
「シャルロット、ガラスの君がついに見付かったそうだが」
「はい、お父様。このガラスの靴がぴったりでしたし、本人も舞踏会で私と踊ったと言っています」
シャルロットの合図で扉が開き。若い男が玉座の間に足を踏み入れた。濃紺を基調とした、細かな刺繍が施された衣装に身を包んだ男である。青いリボンで束ねられた銀色の髪が揺れる。
国王が、王妃が、使用人達が、見惚れた。あまりにも美しい衣装と、それに負けない着用者。今この瞬間、突然舞踏会が始まってもおかしくないくらいの盛り上がりだ。
リオンは自分に向けられる大量の視線に緊張しながら、シャルロットの元へ向かう。足元はアンブロワーズが持って来てくれた、議会に行く際に履いている靴だ。
「陛下、お目にかかることができて光栄です」
「君がガラスの君? どこかで見たことがあるような気もするが」
「私は、サンドール子爵ガエル・ヴェルレーヌが嫡男、リオン・ヴェルレーヌでございます」
「サンドール子爵の」
シャルロットは手にしていたガラスの靴を床に置く。
「リオン、お父様とお母様に靴がぴったりなところを見せて」
王女付きの侍女が椅子を持って来てくれた。リオンは椅子に腰を下ろし、左足の靴をガラスの靴に履き替える。屋敷の前で確認した時と同じように、足はガラスの靴にすんなりと入った。国王も王妃も、その様子をしっかりと見届ける。
サンドール子爵家のリオンの足にガラスの君が落としたガラスの靴がぴったりだ。王女シャルロットはガラスの靴がぴったりなガラスの君と結婚すると言った。すなわち、シャルロットの相手はリオン。玉座の間にいた人々が、より一層興味深そうにリオンを見た。
シャルロットは椅子に座ったままのリオンに飛び付くようにして、彼の腕を取った。
「お父様、お母様、わたくしはこの方と結婚します!」
「う、うむ……しかしな……」
「シャルロット、サンドール子爵にはこのことを言ってあるの?」
「あっ。ま、まだです……」
そろそろとリオンから離れ、シャルロットは両親から目を逸らす。
「王族と貴族の婚姻は、家同士の大切なやり取りだ。子爵とも話をしなければならない。リオン、子爵と話をすることは可能だろうか」
シャルロットは屋敷を訪れたが、国王や王妃が屋敷にわざわざやって来ることなどないだろう。国王と子爵が話し合いをするためには、子爵が王宮に赴く必要がある。しかし、子爵はここしばらく村の外はおろか屋敷の外にすら出たことがほとんどない。元気のありそうな日にリオンを訪ねて硝子庭園を訪れることもあるが、それもごくごくわずかな時間である。
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