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リオンは椅子から立ち上がり、高い位置に座っている国王と王妃を見上げる。
「父は、体調がすぐれなくて……。議会も私が代理で出席していますし、陛下とお話しするのは、難しいかと……」
「なるほど、だから君の姿を見たことがあったのだな。……では、君が子爵にちゃんと話をして、子爵の言葉を私に知らせたまえ」
「は、はい。分かりました」
続きはまた今度。そう言って、国王はリオンに下がるように告げた。リオンは靴を履き替え、国王と王妃に深々と頭を下げてから玉座の間を退出した。
廊下に出てから少し歩くと、シャルロットが後を追いかけて来た。
「リオン、リオン! お父様もお母様も、別に怒っていて貴方を認めないとか、そういうんじゃないのよ。貴方のお父様に話をしないで貴方を連れて来たわたくしが悪いんだわ」
「シャルロット様、もう少し、待っていてくださいね」
シャルロットの頭を軽く撫でて、リオンは踵を返して歩き出した。王宮の廊下にいてもおかしくない、それどころか王宮に負けないくらい美しいガラスの君が颯爽と歩いて行くのを、人々は目で追った。
外に出て、近くにいた使用人にシトルイユの居場所を訊く。すると、すぐに馬係がシトルイユを連れて来てくれた。愛馬は嬉しそうにリオンに顔を擦り付ける。
「ひとまず帰ろう、シトルイユ。……あれ。アンブロワーズは……?」
玉座の間に入る際、アンブロワーズは廊下でリオンのことを見送ってくれた。待っているのだとばかり思っていたが、外に出るまでの間に彼に会うことはなかった。
リオンはシトルイユの引き綱を手にして、周囲を見回す。数多の人々が行き来する王宮の敷地内であっても、あの純白を見逃すことはないだろう。ところがどこにも見当たらない。リオンはその場で三周ほどして、立ち止まる。
「私を置いて帰るとは思えないけれど……」
それならば、まだ王宮の中だろうか……。
足元に白い羽根がはらはらと落ちて来た。見覚えのありすぎる羽根に、リオンが聳え立つ王宮を見上げた、その時だった。
真っ白なものが窓から放り出され、地面に落ちる。
声が出るよりも先に足が動いた。シトルイユから手を離し、駆け出す。
「アンブロワーズ!」
アンブロワーズは地面に横たわったまま動かない。リオンは駆け寄り、抱き起す。窓の傍から誰かが立ち去るのが見えたが、後ろ姿だったため誰なのかは分からなかった。
「アンブロワーズ、しっかりして」
「リ……オン……」
うっすらと開かれた目がリオンに向けられた。オレンジ色の瞳は力なく揺れている。
「貴方の腕の中にいるなんて、これは夢ですかね……。天国? 俺死んだ?」
「痛いところはどこ? 怪我は?」
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