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「……痛い。これ、現実……? 俺、貴方の腕の中に……? 現実?」
「頭を打ったのか? ここがどこか分かるか。私のこと、分かる?」
「ここは王宮。貴方は、俺の大切なリオン」
「何があったの」
リオンの問いかけに、アンブロワーズは窓へ視線を向ける。
「貴方を待っていて……。痛っ……!」
アンブロワーズは痛みに顔を歪める。リオンにはどこが痛いのか分からない。しかし、いつも余裕そうにしてへらへらとしているアンブロワーズが辛そうにしているのは珍しく、リオンの表情には驚きと焦りの色が滲んだ。
近くにいた使用人や来訪者達が二人のことを心配そうに見ている。一人が声を掛けたが、リオンの耳には入ってこなかった。
「ど、どうしよう……。とりあえず病院に……。シトルイユ! 来てくれ!」
「あぁ、いいですよ俺のことなんて。放っておけばそのうち……うっ」
駆けて来たシトルイユにアンブロワーズのことを乗せる。乗せようとした。だが、リオンの力ではアンブロワーズの体は持ち上がらなかった。人間の体を飛ばす大きさの翼を背負っているため、見た目の印象よりも翼の分重い。翼がなくとも上がらないかもしれないが、翼があるから余計上がらない。そこでようやく、リオンの耳に周囲の声が入った。使用人数人が手伝ってくれ、近くにある病院の場所も教えてくれた。礼をして、リオンはシトルイユの引き綱を引いて歩き出す。
誰かが落ちたと、小さな騒ぎが起きていた。騒ぎを聞き付けて窓辺にやって来たシャルロットは、門から出て行くリオンの後ろ姿を見付けた。主が馬を引き、従者が馬に乗っている状況に首を傾げた。
門前の通りを進み、曲がって少し行ったところに使用人に言われた病院があった。医者曰く、体を強く打ったので衝撃が体中に響いているとのこと。傷になっている場所は処置をしてくれたが、痛みは引くまで安静にしているしかないという。幸いにも骨折はしていないようだが、それは人間と同じ部分だけの話だ。
「翼は診てもらえないのでしょうか」
「貴族の若様の頼みは聞いてやりたいけれど、ドミノを診たことはなくてね」
「そうですか。ではそれは地元で診てもらいます」
病院のベッドで少し休ませてから、リオンは再びアンブロワーズをシトルイユに乗せて出発した。
レヴェイユに着いてすぐに診療所に向かい、下宿先の時計屋に事情を言い、市場で買い出しをして、すっかり日が暮れた頃に森の屋敷へ到着した。昼食を食べ損ねたため、腹の虫が食事を求めて鳴いている。
シトルイユを厩に入れ、その背中から下ろしたアンブロワーズに肩を貸して歩く。
「すみません、リオン。迷惑をかけてしまって」
「気にしないで。私はいつも君に助けられているんだから、そのお返しだと思って」
屋敷に戻って来たリオンを見て、継母と義姉達は目を丸くした。リオンがガラスの君の格好をしていたことに加えて、アンブロワーズがぼろぼろだったからだ。
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