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心配で様子を見守りたいから連れ帰って来たということと、アンブロワーズを寝かせてから夕食の用意をすることを伝える。買って来た食材をキッチンに置いてから、リオンは自室へ向かった。
「あまりいい寝床ではないけれど、ここを使ってね」
自分のベッドにアンブロワーズを横たえ、リオンは頼れる魔法使いの真っ白な翼を軽く撫でる。村の医者の見立てでは、翼も骨折はしていないとのこと。診断を聞いて、リオンはほっと胸を撫で下ろした。
「リ、リオンのベッド。リオンのベッドで寝ていいんですか。これは、今度こそ夢なんじゃ」
「元気はあるみたいでよかった」
「貴方はどこで寝るんです」
「私は床でいいよ」
「そんな! 俺が床で寝ますから! うぅ痛っ!?」
「あぁもう、勢いよく動いたらいけないよ」
リオンは起き上がろうとするアンブロワーズを半ば強引に寝かせ、くたびれた毛布をそっと掛けてやった。
「王宮で何があったのか、後で教えて。それまで安静にしてて」
「……分かりました」
おとなしく毛布にくるまったのを見届けて、リオンは部屋を出た。
リビングに戻ったリオンを待ち構えていたのは継母と義姉達である。ナタリーが小走りに寄って来て、ガラスの君の衣装をぺたぺたと触る。
「本当に貴方がガラスの君だったの」
「似合っているでしょうか」
「素敵な服。王子様みたい! 鳩がこれを用意したの?」
「はい。彼は私に魔法をかけてくれたんです」
にこりと笑うリオンと、それを見て微笑むナタリー。そんな二人のことを継母は嫌らしい目付きで見ていた。何かを企んでいる顔である。クロエは母の考えを知っているのかいないのか、ちらりと一瞥しただけで後は涼しげな顔で村の娘達からもらったかわいらしいブーケを眺めていた。
継母が一歩前に出る。
「灰かぶり。リオン、おまえが本当に舞踏会のガラスの君ならば、おまえはシャルロット王女と結婚するのかい」
「王女はそのつもりのようですが……」
「おまえは?」
「私は……。私は彼女に会いたかったので、ずっと共にいることができれば幸せだと思います。彼女にいつか会ってやるのだと思えば、お義母様達からの仕打ちにも耐えられましたから。ただ、心の準備が。心の準備だけができていなくて。もっと彼女にふさわしい男になってから……」
継母のくすんだ瞳がきらりと光る。そしてずんずんとリオンに近付いた。
「灰かぶり! おまえは王女と結婚しなさい! するんだよ! いいね!」
「うわ。珍しいですね、お義母様が私の幸せを願うなんて。近い。近い近い、近いですって」
「おまえが王女と結婚すれば、この家には王家との繋がりができるんだ。王家と近付けば、きっと豪勢に暮らせるさ!」
「わ、私はそんなつもりじゃ……! お義母様達の考えていることはだいたいそんなものだと思っていましたが、本当に汚い人ですね」
「母親に向かってそんなことを言うんじゃないよ! 私に文句があるなら、おまえを昔みたいな灰かぶりにしてやってもいいんだよ!」
継母の勢いにリオンは一瞬怯みかけるが、負け続けた幼い頃とは違う。睨み付けて来る継母を睨み返し、数歩進んで継母のことを退かせる。
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