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レヴオルロージュで一番偉いのは国王だ。一番の決定権を持つのは国王だ。一番力が強いのは国王だ。もちろん周りの政治家や貴族と意見を交えて大事なことを決めるのだが、国王の一声で結果が変わることも少なからずある。
王子や王女の婚約ともなれば大きく国や国民を動かすものだ。どこの誰と結婚するのか、その判断は慎重にしなければならず、政治家や貴族の目は鋭くなり、国王と王妃の力は強くなる。オール侯爵の令息であるドミニクはその鋭く恐ろしい数多の目の中を通過したのである。
シャルロットとリオンが互いのことを好いていても、子爵がそれを認めても、国王もしくは王妃が許さなければ二人が結ばれることはない。
子爵はもう一度リオンの気持ちを尊重しているということを告げると、静かに食事に戻った。
その後はいつもと変わらない夕食の時間となった。子爵は会話で使った体力を補うように黙々と食べ、義姉達が村で起こったできごとなどをテーブルの上に展開させた。
やがて、ヴェルレーヌ家の面々は自室に戻って行く。食器類を片付けてから、リオンは盆を手に自室へ向かった。
「アンブロワーズ、調子はどう?」
ベッドに横になっていたアンブロワーズは、リオンの声に身を起こす。灰かぶりの姿を視界に捉えて、魔法使いは不気味に笑った。
「いつもの服に戻ってしまったんですね」
「あの衣装で家事をしろと?」
盆をサイドテーブルに置き、リオンは呆れた表情を浮かべた。
「風邪を引いたわけではないからこれでいいか分からないけれど、安静にして寝ているんだから体にいいものがいいと思って」
皿の上にはジャガイモのピュレが載っている。ハムを添えたマッシュポテトは調子が悪い時の定番の食事だ。隣の皿には野菜たっぷりのスープが揺れている。
アンブロワーズは皿を手に取り、少しずつ口に運んだ。
小さな頃、風邪を引いて寝込んでしまったリオンに母が用意してくれた料理。貴族の家庭にとっては簡単で質素なものだったが、料理人ではなく母が手ずから準備してくれた優しい味にリオンは頬が落ちてしまいそうな気分になった。誰かが体調を崩した際にはいつもその時の味を思い出しながら作っている。
「王宮で何があったのか教えてくれる?」
スープをふうふうと冷ましていたアンブロワーズは、スプーンで掬っていた分を飲み干して顔を上げる。
「リオン、料理上手ですよね」
「何年もやらされていたからね。今はもう、料理をすることも好きだけど」
「……玉座の間の前で貴方を見送って、近くの廊下をうろうろして時間を潰していたんです。王宮の中になんて滅多に入れないし、この機会にあの美しい内装を目に焼き付けておこうと思って」
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