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Verre-5 それぞれの思惑
二日後、シャルロットが再びヴェルレーヌ邸を訪れた。豪奢な馬車を小さな別邸の前に停めて、つやつやの靴で降り立つ。
シャルロットの鳴らしたノッカーを受けて現れたのはクロエだ。レヴェイユの村の娘達から今日も素敵な花束を受け取り、ちょうど屋敷に戻って来たところだった。眼前の王女にも気障な素振りで格好を付けつつ、硝子庭園の方を指差す。
「王女様の目的は灰かぶりだろう? あの子なら硝子庭園にいるよ」
「硝子庭園……?」
クロエの指差す方向を見て、もう一度クロエを見て、シャルロットは小首を傾げる。
「灰かぶりが集めたガラス達が飾ってあるガラス張りの温室庭園さ。あんなに美しい庭園は灰かぶりには勿体ないと思っていたけれど、まさか彼がガラスの君だったなんて」
「わたくしは彼を探していました。彼もわたくしのことを探していました。彼が見付かって、本当に良かった」
ほんのりと頬を赤らめるシャルロット。そんな王女を見てクロエはほんの少し口角を上げた。
村娘達を虜にする自分を前にしてもリオンのことばかりを口にするシャルロットは、彼女にとって珍しい存在だ。王子の現れる舞踏会に弾む足取りで向かったクロエは素敵な男のことが好きだが、自分に見惚れるかわいい女のことも大切に思っている。自分を見る女達の視線を取り上げる王子と、自分に見向きもしない王女。面白い兄妹だな……という言葉を飲み込み、クロエはシャルロットの手を恭しく取った。
纏っているものは可憐なドレスだが、片膝を着き王女の手を取る姿はまるで騎士のようだ。馬車の傍で控えていた王女付きの侍女が「きゃっ」と小さな歓声を上げた。その声にクロエは満足げに笑う。
「王女様。私はきっと灰かぶりに優しくしてやれないから、貴女が彼に幸せを与えてやってほしい。私はお母様の言いなりではないけれど、一緒になって彼に酷いことをしてしまったからね。ナタリーのようにもう少し近付いてあげればよかったのかもしれないな。私は、灰かぶりには幸せなんて訪れなければいいと思っている。でもそれと同時に、ガラスの君には輝いていてほしいとも思っているのさ。自分でも自分が何を考えているのか分からないから、こうして自分の好きなことをして気を紛らわせている」
クロエは侍女にウインクをして、一瞬で仕留める。
「素敵な王女様。貴女はお姉様と同じように国中の女達の憧れなのです。貴女の一挙手一投足に皆が注目するでしょう。己の選択が正しいのだと見せ付けてやりなさい」
「貴女は……リオンのことが嫌い……? でも、わたくしのことは応援してくださるの?」
「女の子には笑顔が似合うから、貴女にも笑顔でいてほしいだけだよ」
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