Verre-5 それぞれの思惑

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 別荘で遊んだ時のようにリオンの背を追い駆ける。シャルロットの前で揺れる彼の髪は栗色から銀色へ変化した。長さもずっと長くなって、後ろ姿だけでは面影などほとんどなく、女性と間違えられるということにも納得した。しかし、顔を合わせて話をするとあの時のリオンと同じなのだと分かる。この後ろ姿も交流を重ねるうちにしっかりとリオンのものとして認識できるようになるのだろう。シャルロットはぼさぼさの髪を眺めながら、反対側にあるリオンの顔を思い浮かべた。  本物のハシバミとガラスのハシバミに挟まれた部分を抜けると、小さな井戸が姿を現した。井戸の脇に如雨露を置き、リオンは振り返る。 「屋敷の方に引いてある水道をこちらまで繋いだんですよ。ここにはガラスだけじゃなくて花や木もある。植物に水は不可欠。元々は母が世話をしていた花壇の場所。形が変わっても、この場所は母の大切な場所だから。種を取って残したものもあるんですよ」 「あの立派なハシバミも?」  シャルロットは先程通って来たハシバミの道を指差す。 「あれは母の亡くなった年の実を植えたものなんです。よくヘーゼルナッツのクッキーを作ってくれました」 「素敵。お母様との思い出の味なのね。それじゃあ、あちらのガラスのハシバミは」 「あれは私が最初に競り落としたガラス細工です。なんて金額で買って来たんだとお義母様達には怒られてしまいましたが……」  ガラスのハシバミは幹から枝の先や葉、実るヘーゼルナッツの一つ一つまで、細やかに作りこまれている。周囲の植物に撒いた時に跳ねた水が葉の先から一滴落ちた。  硝子庭園の中に敷かれた石畳の通路は、いくつかのルートに分かれている。井戸の前に来た道とは別の方向へ伸びている道を差し、リオンは歩き出した。 「外へ出るなら戻るよりもここを通った方が早いです」  ガラスと植物を潜り抜けて、ガラス戸を開けて二人は外に出る。シャルロットは中に入ってぐるりと回って戻って来る形となった。  そうして、リオンは議会へ赴く際の服に着替えてシャルロットと共に馬車へ乗り込んだ。その姿を廊下の窓からナタリーが見ていた。 「また王様に呼ばれたんですって」  ゆるく巻いている黒髪に指を絡ませる。 「リオン、このまま話がどんどん進んで本当に王女様と結婚しちゃうのかしら」  全部貴方の筋書き通り? と、ナタリーは後ろを振り返る。  廊下に向けて部屋のドアが開けられている。かつて物置として使われていた部屋に置かれたベッド。その上からオレンジ色の瞳がナタリーを見ていた。
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