41人が本棚に入れています
本棚に追加
リオンが別荘に滞在している間、シャルロットは時折彼の元を訪れた。シャルロットはいつも塀の隙間や生垣の間や木の上から現れる。家の人に言わずに出かけるのはよくないとリオンは毎回のように注意をしたが、その度にシャルロットは少しだけ寂しそうな顔をした。
交流を重ねるうちに、二人は少しずつ仲良くなった。
「ねえ、リオン。わたくしね、運命の人って自分で見付けるものだと思うの」
「そうなんだ」
「でもね。わたくしはきっとお父様達が決めた人と結婚するの」
貴族の子供であれば、親が決めた許嫁と結婚したり政略結婚の駒にされたりすることは少なくない。結婚なんて何年も先のことだから、シャルロットが今から深刻そうにしているのがリオンにはなぜなのかよく分からなかった。
「あのね、リオン。わたくしね、あなたが好きなの。優しくて、綺麗で、素敵で。だからね、大人になったらわたくしと結婚してくださらないかしら」
「え」
「リオン、大きくなったらわたくしのお婿さんになって!」
〇
「……ン……リオン……。……リオン、起きて。起きてください、リオン。こんなところでうたた寝していたら風邪を引いてしまいますよ」
「ん……」
肩を叩かれて、リオンは目を覚ました。差し込む光に銀の髪と青い瞳が煌く。
「にやにやしてましたよぉ」
「にやにやしてない」
「いい夢でも見てたんですか?」
「……昔の夢を見ていた気がする」
リオンは椅子から立ち上がり、東屋から退出した。声をかけてくれた真っ白な男が後に続く。
銀暦二四七五年、春。ペロア大陸東部レヴオルロージュ王国。王都パンデュールから川を一本越えた郊外の森の中にサンドール子爵ヴェルレーヌ家の別邸は建てられている。元々は王都により近い場所に大きな屋敷を構えて煌びやかな生活を送っていたが、十年前を境にヴェルレーヌ家は輝きを失って行った。
優しく穏やかな母が病に倒れたのだ。散歩に出れば小鳥達が安心して寄って来るほどの優しさとまで言われた母は、病床にあってもにこにこ笑ってリオンを心配させまいとした。「白い鳥を助けて、それ以来鳥さんと仲良しなのよ。困った時に、きっと貴方を助けてくれるわ」と、面白おかしい話をしてくれたのをリオンは今でもよく覚えている。
最初のコメントを投稿しよう!