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靴さえ合えばいい、という条件は非常に寛容なものだ。シャルロットは両親に強く訴え続け、それを受けて国王と王妃は貴族や政治家達を集めて話し合った。その結果出された条件が、両足をガラスの靴に入れること。ガラスの君であればガラスの靴に足がぴったり入る。とはいえこれはガラスの靴が一足揃っている前提だ。
「ね、リオン、今度お屋敷からもう片方のガラスの靴を……」
リオンは、もう片方を持っていない。
シャルロットは返事をしないリオンのことを見上げる。
「……リオン?」
「あ……ぇ……。わ……。私……は、持っていません……」
「え?」
「右足……。ガラスの靴の右足は、私の手元にはありません。王宮を出て屋敷に着くまでの間で落としました……」
玉座の間にどよめきが広がる。
先程「もう片方」と言われた時のリオンの反応に合点が行ったらしいオール侯爵が僅かに口角を上げた。予想外の展開が起こっても、見付けた隙は逃さない。
「おや、困りましたな。まさかリオン殿はガラスの君を騙っていたのかな? 片足が靴に入る人間なら国中探せばガラスの君以外にもいる可能性もある。片方入ったから、そのまま地位を得ようとした、とか」
「侯爵! リオンはそんなことしないわ!」
「ですが王女様、靴の片方は彼の元にはないと言っていましたよ。本人が」
「それは……。ねぇ! ねえっ、リオン!」
シャルロットはリオンを振り返る。戸惑っているシャルロットに見向きもせず、リオンはただ一人立ち竦んで動揺していた。周りを見る余裕などなかった。今、この場で自分はどうすればいいのか。くるくるとその場を歩き回り始めたところで、シャルロットにジャケットの裾を引っ張られる。
リオンはシャルロットを見て、国王と王妃を見て、オール侯爵を見た。侯爵の後ろに控えているドミニクは黙ったまま困った様子でリオンを見ている。
「わ、私は、ガラスの靴を持っていません、シャルロット様……。ずっと、ずっとずっと探しているのですが……」
「貴方はガラスの君なんでしょ。嘘なんて吐いていないわよね。だって衣装を持っていたわ」
「……はい」
似せた服を作ったのではないのかね? と侯爵が問う。リオンは首を横に振るが、先日の衣装がガラスの君のオリジナルだという証拠はない。リオンの顔から、動揺以外の表情が全て消える。
シャルロットはリオンのジャケットから手を離す。ぐっと拳を握って気合を入れてから、両親に向き直る。
「お父様、お母様。条件はガラスの靴に両足がぴったり入ること。そうですよね。みんなが話し合って、そうしようって決まったんでしょ。わたくしちゃんと聞きました。ねえ、そうでしょ」
「そうだな。そうと決めた」
「でも、彼の元には靴がないんでしょう?」
「それなら、探します!」
シャルロットはリオンより数歩前に出る。庇うように、守るように、広がるドレスの影に隠してしまうように。
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