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リオンはシャルロットの後ろ姿を見つめる。小さな背中は長い髪に隠れてしまって見えないが、随分とたくましい存在がそこに広がっているように思えた。
「わたくし、ガラスの靴を探します! もう片方が見付かって、それもリオンの足にぴったりだったらいいでしょう?」
国王と王妃は顔を見合わせる。
「決めたことを変えてしまっては皆に示しが付かないからな……」
「そうね。そうなったのであれば」
「恐れながら陛下、よろしいでしょうか」
割って入って来たのはオール侯爵である。
「リオン殿は靴を探すと言って時間稼ぎをするつもりやもしれません。どこかの職人に靴を作らせて、これこそがあの時の靴だと言って来る可能性もありますよ」
「リオンはそんなことしないわ!」
「王女様、貴女は彼に舞踏会で会っただけでしょう。彼のことを詳しく知っていらっしゃるのですか?」
「し、知ってるわ! リオンはね、カヌレが好きなのよ!」
「ははは、かわいらしいお菓子が好きなのですなリオン殿は。……王女様、訊ねているのはそういうことではありませんよ」
シャルロットは小さな子供のように膨れっ面で侯爵を見る。
大きくなってからリオンと会ったのは舞踏会の日と一昨日だけ。だが、シャルロットの中には幼き日の思い出が残っている。屋敷の近くにあるケーキ屋のカヌレが好きなのだと言って笑う小さなリオンのことを覚えている。
あの時、約束をした。リオンはそれに応えてくれた。
シャルロットはリオンを振り向く。物語に登場する、お姫様を迎えに来てくれる王子様。自分の元にもいつか現れるのかもしれないと小さな頃から思っていた。そして、別荘で出会ったリオンに小さな心は大きくときめいた。この人こそが自分の王子様に違いない。思い切って、気持ちをぶつけた。子供の恋心は一夜の熱のようで、それでいて確かなものだった。やがて月日は流れ、王子様はガラスの靴を履いて現れた。
随分と見た目が変わってしまっていて、ガラスの君がリオンだとは気が付かなかった。しかし、シャルロットの心を揺さ振ったのはまたしてもリオンだったのだ。やっぱりこの人なんだ。この人じゃなきゃいけないんだ。シャルロットは駆け寄るように近付き、リオンの手をぎゅっと握った。
「シャルロット……様」
動揺以外のものが消えていたリオンの顔に、僅かに安堵が滲む。その表情はすぐに不安に変わってしまったが、不安でいる今でさえ動揺し続けていた先程よりは落ち着いている状態である。
「リオン、わたくしと一緒にもう片方のガラスの靴を探しましょう。ね」
「シャルロット様、そこまでして」
「だって約束したじゃないの。その約束をお互いに覚えていて、今こうしているんだったら、そこまでするに決まっているでしょ」
「強い、ですね。貴女は。変わらないな」
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