41人が本棚に入れています
本棚に追加
リオンは静かに目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。シャルロットの手を握り返して目を開くと、その顔から不安は消えていた。強引に塗り重ねた自信を被って、国王と王妃に対峙する。
「陛下、お願いします。ガラスの靴を探す時間をください。期限を決めていただいて構いません。見付からなかった時は……」
リオンはシャルロットに一瞬視線を向ける。
「見付からなかった時は、この件はなかったことに」
「リ、リオン……!」
「オール侯爵も、よろしいですね」
「ふん、私に確認を取る必要があるのかね」
「陛下、お願いします。私に時間をください」
リオンは国王と王妃に頭を下げる。シャルロットも続いて頭を下げた。
国王と王妃は顔を見合わせた。一言二言交わしてから二人は正面に向き直る。
「では、六月の……」
国王は右手を上げて、五本の指を開いて掌を見せた。そこに左手の人差し指を加える。
国王が提示して来た六月という期限にリオンは僅かにたじろぐ。仮にガラスの靴が見付かった場合、リオンのことを盛大に発表するつもりなのだ。娘のために必ず靴を見付けて来いという圧を感じ、リオンは恐怖にも似た感覚に捕らわれた。
ガラスの靴が見付からなければリオンの居場所はここにはない。没落寸前の家の令息など、王女の隣に並び立つにはふさわしくないのだから。
「六月……十日……。いえ、九日まで、ですね……?」
「君が無事にガラスの靴を見付けて来られれば、式典で大々的に発表しよう」
六月十日はレヴオルロージュの建国記念日である。毎年式典が開かれ、王都パンデュールの城下町ではパレードが行われる。その催しの中でリオンがシャルロットの新しい婚約者であると国民皆に向けて公表するのだ。
今すぐにこの場から逃げ出してしまいたい。それくらい恐ろしくて、プレッシャーに押し潰されそうで、体が震え出しそうだった。手袋の中にじんわりと滲む汗を握り締めて、リオンは国王を見据える。
「分かりました」
「うむ。君はサンドール子爵の代理としてよく努力をしている良い子だと思う。しかしオール侯爵の言っていることも一理ある。そこで」
国王は先程から黙って様子を見守っているドミニクに目を向けた。油断していたドミニクが小さく悲鳴を上げる。
「こちらでシャルロットとリオン君の動向を追う使用人を用意する。もちろん彼らには影に徹してもらうからいないものとして扱ってもらって構わない。そこに加えて、シャルロットがリオン君の元へ出向く際にはドミニクも同行するように」
「ぼっ、僕がですか……!?」
最初のコメントを投稿しよう!