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「少し怖いくらいですよね。でもいいやつですよ。たくさんよくしてくれて。……優しい、兄みたいで」
少し躊躇うように、照れるように、リオンは言った。すると、シャルロットと並んで座っていたアンブロワーズが勢いよく立ち上がった。木々が風に揺れる音に溶かすように零された言葉を、この魔法使いは聞き逃さない。
「兄!? リオン、今俺のことを兄だと言ったのですか!?」
「怖い! 怖いどうして聞こえてるの」
「勿体ないお言葉! 俺なんかを兄だなんて! つ、つまりリオンが俺の弟!? かっ、かわいすぎる! うわっ! ちょっと俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでみてください。……あ! やっぱり駄目です。俺が死んでしまうからやめてください」
ドミニクは不審者を見る目をアンブロワーズに向けている。仲良く談笑していたシャルロットも唖然として白い魔法使いの賑やかな動きを目で追った。
「こ……個性的なご友人ですね」
「悪いやつではないんですよ」
リオンのフォローはフォローにならない。
怪訝な目を向け続けるドミニクに気が付いたアンブロワーズが、真っ白なローブを翻して近付いて来た。ドミニクは無意識に後退してシトルイユの影に隠れてしまった。
「オール侯爵のところのドミニク坊ちゃん」
「な、なんだ僕に何の用だ」
「あんた父親から何か言われて付いて来てますね? あんたが婚約者から身を引いたことは分かっていますが、侯爵がリオンのことをよく思っていないのも知っています。もしリオンに不利益が生じることをあんたの手でやってみなさい。その目の一つや二つ、俺がハシバミの枝で潰してやりますからね」
「怖い! 怖い。リオン様……」
「ドミニク様を脅すなアンブロワーズ。姿は見えないけどジャンドロン家の使用人が来ているんだ。君に不利益が生じる報告がされるかもしれない」
制止するリオンに、アンブロワーズは狂気と歓喜を孕んだ顔を向けた。
「俺のことを心配してくれるんですね……! あ、ありがとうございます……!」
「貴族に目を付けられてこの間みたいになったら困るでしょ。あの犯人が誰だったのか分かっていないんだから」
「ふふ、優しいですね。ありがとうございます、俺のかわいいリオン」
「はいはい」
アンブロワーズの纏わりつくような視線ともう既に纏わりつき始めた腕を軽くあしらって、リオンはシトルイユの肩を叩く。小さく嘶いたシトルイユに反応して、草を食んでいた王宮の馬とオール侯爵家の馬も顔を上げた。そろそろ出発だ。
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