Verre-1 灰かぶりと魔法使い

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 一家は療養のため自然に囲まれた別邸に移り住み、長年尽くしてくれた使用人達には本邸を売り払った金を分け与えて長い長い休暇を与えた。生活は質素になり、父のサンドール子爵も豪奢な社交界から身を引いた。三人だけの静かな日々を過ごしていた時が一番平和だったと子爵は語る。リオンの母はそれから五年後に亡くなった。よく頑張ったと医者は言っていた。そしてしばらくして現れたのが子爵の後妻、今のリオンの継母である。妻を失い傷心の子爵の元に二人の娘を連れてやって来た彼女は子爵に優しい言葉をかけ、リオンにも慈しむような目を向けた。しかし、信頼関係をしっかりと築き上げた頃、継母達は本性を現したのだった。  落ちぶれたように見えていても、貴族である。王都に足繫く通って議会に出席し、子爵は仕事に精を出していた。庶民と比べればまだまだ金はある。継母はそれを目当てに子爵に近付いたのだ。気の強い彼女に押され、子爵は次第に元気をなくして行った。そして、まさに好機と言わんばかりに継母と娘達はヴェルレーヌ家を乗っ取ったのである。リオンは頼りない父だとは思わなかった。ずっと傍にいたからこそ子爵の辛さや苦しさ、悔しさが分かっていた。心労が祟ったのか、子爵は数年前から議会に顔を出すことが減り、ベッドで横になっていることが多い。  また、継母と義姉達はリオンにきつく当たった。本邸での暮らしを僅かに語っていた服を奪い、家事を押し付け、自分達は街に出かけたり綺麗な服を着たりした。貴族の嫡男に向かってなんて仕打ちをするのかと抗議をしたが、まだ子供だったリオンは継母に打ち勝つことはできなかった。子爵は三人の行いを注意してリオンに昔から変わらない愛情を向け続けたが、三人を止めることはできなかった。「すまない、すまない」と憔悴しきった顔で謝る父にリオンは心を痛めた。  転機は、一年半前。  母譲りの栗色の髪がすっかり灰に染まってしまった灰かぶりのリオンの前に、魔法使いを名乗る男が現れたのである。  王宮で舞踏会が開かれるという知らせがヴェルレーヌ家に届いた。社交界から退いて久しい子爵の元に、プライベートでも交流のあった貴族から連絡があったのだ。曰く、第二王女の誕生日を兼ねた大きなパーティーになるから、たくさんの人が来る。大勢の中に紛れ込んでしまえば久し振りでもきっと大丈夫だから、貴方もよければ参加しないか、と。  子爵はベッドと仲良くしているので出席することはできない。名代でリオンが赴くべきだが、着ていく服などどこにもない。身に纏っているのは背が伸びたせいですっかり寸足らずになっているぼろぼろの服だけだ。部屋を散らかしてリオンの仕事を増やしてから、継母と義姉達は着飾って舞踏会へ出かけて行った。
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