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振り落とされないようにリオンはしっかりと掴まる。シトルイユはリオンがこの程度では落ちないと思って速度を上げて走っている。落馬すればリオンは怪我をするし、シトルイユは主人の技能を理解していなかった自分を悔やむだろう。だからこそ、リオンはぎゅっと手綱を握り締めるのだ。
「止まってー! 止まって! やだー!」
「シャルロットの声……。シトルイユ、あっちだ」
声を頼りに方向転換し、当てもなく彷徨い走る白馬とシャルロットを追い駆ける。
「止まってー!」
「シャルロット様!」
「リ、リオン!?」
王宮の美しい白馬の背中にしがみつきながら、シャルロットはちらりとリオンを見る。馬同士が接触しないように、余計に興奮させないように距離を取りつつ、リオンはシトルイユを白馬にほんの少し近付けた。
「シャルロット様、絶対に手綱から手を離さないでくださいね」
「離さない!」
「乗り手の不安は馬に伝わります。だから、どうか落ち着いて。体を起こして、手綱は離さないで、でも緩めて。引っ張らないで。怖い気持ちは分かります。ですが、叫べば馬は余計興奮します。落ち着いて、落ち着いて、馬のことも落ち着かせて」
「わ、分かっ……! 分かったわ! よし、よしよしよし大丈夫大丈夫大丈夫」
「私がいますから、安心してください。大丈夫ですよ、シャルロット様」
「よしよし。ほら、大丈夫よお馬さん。わっ、うわ。だ、大丈夫。よしよし、きゃっ」
「シャルロット!」
バランスを崩したシャルロットはなんとか持ちこたえるが、その目には大粒の涙が浮かんでいた。立ち止まりかけた白馬はその場で跳んだり跳ねたり立ち上がろうとしたりしている。
「シトルイユ、もう少し寄せられる? うん、そう。よし、ありがとう。……シャルロット、僕を信じて。大丈夫だから」
動き続ける馬の上で視線が交わる。
「リオン」
「前見て。よそ見しない」
「は、はい!」
「落ちても受け止めるから、自分にできることをしっかりやって。馬を落ち着かせて。落ち着けば止まってくれる」
「分かったわ」
落ちれば受け止められない。リオンはシトルイユを信じて、シャルロットのことをじっと見る。屈強な大男であれば馬から振り落とされた少女を救えるかもしれないが、自分に支えることなどできない。しかし、シャルロットはリオンの言葉を信じている。ぐしゃぐしゃになりながら泣いているシャルロットは、それでも手綱を握って馬に優しく声をかけ続けた。リオンがいてくれるから大丈夫だと信じて。シャルロットの表情が変わったのを見て、リオンはそれを感じ取る。
そして根気強く宥め続けて、白馬はようやく落ち着きを取り戻して立ち止まった。リオンはシトルイユから降り、白馬に乗ったままのシャルロットに手を差し伸べる。
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