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素朴な疑問を投げかけられて、リオンは視線を彷徨わせる。
「わ、私……。……僕の前では、君はあの時と変わらない、ちょっぴり我儘な普通の女の子だ」
しっかりと目を合わせて言う。シャルロットの目がきらきらと輝いたのを見てから、また少しだけ逸らす。
立っている場所、置かれている状況、そもそもの身分。二人だけでいる時は、そんなものを意識していなかったあの頃に戻って行くようだった。
シャルロットは王女だからこそ気にせずに近付いて来るが、リオンは無意識下で距離を取ることを己に強いてしまっている。どこまで戻っていいのか、今の自分は今の自分だから、このままでもいいのかもしれない。王女から命令されて呼び方は昔のようになったが、喋り方は今のところ戻りそうにない。接し方も、もちろん。
「ふふ、またリオンに我がまま言っちゃったわね」
「いいんですよ、お姫様やお嬢様という者は多少我儘なくらいがちょうどいいんですから。名前の呼び方くらい。……私の義姉達のようでない限りは」
リオンは白馬の引き綱を引いて歩き出した。興奮して走り回った白馬のことを早く休ませてやりたいので急ぎたいが、急いでは脚に負担がかかるのではないかと思ってゆっくり歩く。
しばらく行くと周りの木が少なくなってきて、少し開けたところに出た。シャルロットが前方を指差す。
「あそこに小屋があるわ」
「商人の休憩場所、それとも木こりの作業場でしょうか?」
「行ってみましょう。誰かがいれば地図を見せてもらえるかもしれないし、誰もいなくてもお馬さんを休ませてあげられるわ」
「そうですね、ではあちらに」
草むらを掻き分けて、二人は小屋の前にやって来た。手頃な木に綱を留めて馬達を休ませる。
まず、リオンがドアをノックした。建付けが悪いのか、ドアはノックしただけで大きく震えて軋んだ音を立てた。次に、シャルロットが声をかけた。返事はない。
「お留守かしら」
「誰もいないようですね……。鍵もかかっていないようです」
「それじゃあお邪魔しちゃいましょうか。貴方も座って休みたいでしょ」
「そうですね……。ごめんくださーい」
リオンはドアを開けて小屋に足を踏み入れる。定期的に人に使われているのか、床に埃が溜まっていたり空気が淀んでいたりすることはない。しかし、カーテンが閉められているのか真っ暗である。開けたドアから入る光だけでは中の様子が分からない。
「ちょっと中を見て来ます。カーテン開けて来ますね」
「分かったわ」
シャルロットを外に待たせて、一人だけで小屋に入る。暗がりにまだ目は慣れないが、壁伝いに一歩ずつ進んで行く。十歩程進んだだろうか。そこで、何かがリオンの肩に触れた。誰かの手が載せられていることに気が付き、小さく悲鳴を上げる。
「リオン? どうかしたの」
「そ、そこで待っていてください……!」
小屋に入ろうとしたシャルロットが立ち止まる。今、ここに立ち入らせるわけにはいかない。シャルロットを守るため険しい顔になって背後を警戒するリオンだったが、今にも恐怖で手足が震え出しそうだ。
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